※システムの出力文字数上限(約4000文字)の都合上、1回の出力で「14000文字〜21000文字」の全7章を一気に書き切ることは物理的に不可能なため、指示に従い「章単位で区切って」出力いたします。今回は【第1章】と【第2章】をお届けします。続き(第3章以降)をご希望の場合は「続きを出力」とご指示ください。指定された文字数とクオリティを厳守して執筆いたします。

「……いや、なんで俺がこんな目に」
春。桜の花びらが風に乗って舞い散る、出会いの季節。
高校の入学式という、これからの三年間を左右するであろう重要なイベントの最中、俺――相馬悠真(そうま ゆうま)は、ひっそりと体育館を抜け出していた。
理由は単純だ。校長の話が長すぎたからである。「新入生の皆さんに贈る言葉が三つあります」と言いながら、すでに五つ目の話題に突入している校長の姿を見て、俺の忍耐力は限界を迎えた。
気づけば足は、立ち入り禁止の札がかかっていない屋上へと向かっていた。春の陽気に誘われたというのもある。ここで少しサボって、頃合いを見て教室に行けばいい。そんな軽い気持ちで、重い鉄の扉を押し開けた。
ギィィ、と錆びた音が鳴る。
屋上には、青く澄み渡る空と、心地よい春の風。そして――。
「……ん?」
俺は思わず足を止めた。
給水塔の陰、日当たりの良いコンクリートの床に、場違いなレジャーシートが敷かれていた。そしてその上には、制服のブレザーを脱ぎ捨て、ワイシャツ姿で大の字になって寝転がる一人の女子生徒の姿があった。
さらに異常なのは、彼女の顔面である。
なぜか、百均のパーティーグッズ売り場で見かけるような「ド派手な星型のサングラス」をかけていたのだ。
「……見なかったことにしよう」
俺は即座に踵を返し、来た道を戻ろうとした。関わってはいけないタイプの人間だ。俺の平穏な高校生活を守るための、本能的な防衛機能が働いた瞬間だった。
「おい、そこのお前! 踵を返すな! 寂しいだろ!」
背後から、よく通る快活な声が飛んできた。
俺はため息をつきながら振り返る。
「初対面の相手に寂しいとか言うなよ。ていうか、なんだお前。サボりか?」
「ふっ。サボりとは人聞きの悪い。私は『有意義な自己対話の時間』を設けているだけだ。お前こそ、あんな退屈な式典から抜け出してきた反逆者の一人だろう?」
女子生徒はむくりと起き上がり、星型サングラスの奥から(見えないが)こちらをビシッと指差した。
桜色の唇がニヤリと弧を描き、ショートボブの髪が風に揺れる。客観的に見ればかなり整った顔立ちの美少女なのだが、いかんせんそのサングラスと態度がすべてをぶち壊していた。
「まあ、反逆者ってのは否定しないけど。……それより、そのふざけたサングラスは何なんだよ。ここは常夏のビーチじゃないぞ」
「これか? これは私のアイデンティティだ。初対面の相手に強烈なインパクトを残すための戦略的アイテムとも言える。どうだ、私の顔、一生忘れられないだろう?」
「いや、逆に素顔が全然わかんねえよ。さっきから右のツルが外れかかってて、斜めになってるし」
「なっ、マジか! 道理で右目の視界が狭いと思った!」
彼女は慌ててサングラスを外し、ポイッとレジャーシートの上に放り投げた。
現れたのは、ぱっちりとした大きな二重の瞳。少し勝気そうな眉と、太陽のように明るい笑顔。俺は不覚にも、一瞬だけ「可愛いな」と思ってしまった。……一瞬だけ、な。
「私は星野夏海(ほしの なつみ)。お前は?」
「相馬悠真だ。よろしくな、星野」
「なんだよ星野って。水臭いなあ。夏海でいいぞ、悠真!」
「距離の詰め方バグってないか? まあいいけどさ」
夏海はバンバンとレジャーシートの空いているスペースを叩いた。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。さあ、座りたまえ悠真。共に校長の長話をディスろうじゃないか」
「お前のどこが百合の花だよ。雑草の間違いだろ」
口では文句を言いつつも、俺は靴を脱いで彼女の隣に腰を下ろした。不思議と警戒心は湧かなかった。むしろ、長年付き合いのある悪友のような居心地の良さを感じていた。
「お前、いいツッコミするなあ。私のボケを的確に拾ってくれる奴、中学では少なくてさー」
「お前がボケ倒すからだろ。……で、自己対話とやらは終わったのか?」
「おう! 結論が出た。『暇だ』ってな! なあ悠真、スマホでなんか面白いゲームやってないか?」
そこから、俺たちの時間は一気に加速した。
たまたま俺がハマっていた対戦型のアクションゲームを夏海もやっていて、しかもプレイスタイルが完全に俺と噛み合っていたのだ。俺が前線でヘイトを稼ぎ、夏海が後方から高火力の狙撃を決める。
「よっしゃ! 今の連携見たか!? 私たちのエイム、神がかってたな!」
「お前が敵をミリ残しするから、俺が最後殴りに行ったんだろうが。もっとちゃんと当てろ」
「あはは! まあ勝てばよかろうなのだ! いやー、お前最高だな悠真! 初対面でここまでプレイスタイルが合う奴、初めてだわ!」
夏海は興奮した様子で、俺の肩をバシバシと叩いてきた。遠慮というものを知らない力強さに、俺は少しむせかける。
「痛い痛い! お前、女子のくせに力強すぎだろ!」
「細かいことは気にするな! よし決めた、今日からお前は私の『最高の親友』だ! 異論は認めん!」
「勝手に決めるな。……まあ、退屈はしなさそうだけどな」
春の風が、二人の間を吹き抜ける。
入学式のサボりという最悪のスタートから始まった高校生活。だが、隣で無邪気に笑うこの規格外の女子と一緒なら、案外悪くない三年間になるかもしれない。
こうして、俺と夏海による「最強の親友関係」は、屋上の青空の下で唐突に幕を開けたのだった。


高校二年の春。
俺と夏海の「親友関係」は、出会いから一年が経過した今も健在どころか、ますます強固なものになっていた。クラス替えでも奇跡的(あるいは担任の嫌がらせ)に同じクラスになり、席も前後の配置。もはや「ニコイチ」という言葉は、俺たちのためにあるのではないかと錯覚するレベルだ。
「お前ら、また一緒に登校してんのかよ。朝から暑苦しいな」
教室に入るなり、友人の健太が半ば呆れたような声で声をかけてきた。
俺は自分の席にカバンを置きながら、肩をすくめる。
「たまたま途中のコンビニで会っただけだ。こいつが立ち読みして動かないから、仕方なく引き剥がしてきたんだよ」
「嘘つけ! 悠真が私のために、新作のチョコミントアイスを買って出待ちしてたんだろうが!」
前の席に座る夏海が、くるりと振り返ってドヤ顔で言い放つ。
「出待ちって言うな。お前が昨日の夜、『明日チョコミントアイス買ってこないと絶交な』ってスタンプ連打してきたからだろ。俺の安眠を返せ」
「ふっ、親友の危機に駆けつけるのは当然の義務だろう? 感謝してやるから、放課後もなんか奢れよな!」
「なんでそうなるんだよ。お前の思考回路、どうなってんだ」
俺たちがいつものようにテンポよく言い合っていると、健太がやれやれと首を振った。
「お前らさあ……ホント、なんで付き合ってないの? どう見てもバカップルの日常会話なんだけど」
「「は?」」
俺と夏海の声が、寸分の狂いもなくハモった。
俺は眉をひそめて健太を見る。
「バカ言うな。俺と夏海は『最高のダチ』だぞ。男女の枠を超えた、魂のブラザーだ」
「そうそう! 悠真は私にとって、便利なアッシー君兼、財布兼、ツッコミマシーンだ。そこに恋愛感情なんていう甘っちょろいもんが入り込む隙間はないね!」
「お前、俺の扱いひどすぎないか? せめて人間として扱えよ」
「愛ゆえのイジりだよ、愛ゆえの!」
ケラケラと笑う夏海に、俺は軽くチョップを落とす。夏海は「いてっ」と言いながらも、どこか楽しそうだ。
健太は「……お前らがそれでいいなら、もう何も言わん」と、遠い目をしながら自分の席へと戻っていった。周囲の連中も「またやってるよ」という生暖かい視線を向けてくるが、俺たちは全く気にしなかった。だって、これが俺たちの「通常運転」なのだから。
放課後。
俺たちは駅前のゲームセンターに立ち寄っていた。これも、週に三回は行われる恒例行事だ。
薄暗い店内に、電子音と若者たちの喧騒が響き渡る。
「右! もうちょい右! ああっ、バカ! 行き過ぎだってば!」
クレーンゲームの筐体の前で、夏海がガラスをバンバンと叩きながら叫んでいる。彼女の視線の先には、人気アニメの限定フィギュアが鎮座していた。
「うるさいな。お前が横からギャーギャー言うから手元が狂ったんだろ」
「私のせいにするな! 悠真の指先が不器用なだけだ! 貸せ、プロの腕を見せてやる!」
夏海は俺を突き飛ばすようにして操作パネルの前に立ち、腕をまくった。
一分後。
「……なんでアームが撫でるだけで終わるんだよ。詐欺だ! この店は詐欺だ!」
「お前がど真ん中を狙いすぎるからだろ。重心を考えろ、重心を。どけ、俺がやってやる」
俺は百円玉を投入し、冷静にアームの位置を調整する。箱の角に爪を引っ掛け、絶妙なタイミングでボタンを離す。
ゴトンッ、という心地よい音と共に、フィギュアが取り出し口に落下した。
「おおおおっ!! マジかお前! 神か! 天才か! 一生ついていくわ!」
夏海は目を輝かせ、俺の両手をガシッと握ってブンブンと上下に振った。至近距離に彼女の顔が近づき、ほんのりと柑橘系のシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
……一瞬だけ心臓が跳ねたような気がしたが、俺はすぐに冷静さを取り戻した。親友の距離感としては、これくらい普通だ。普通に決まっている。
「一生は重いわ。ジュースで手を打とう」
「安いな! よし、任せろ! 一番高いジュース買ってきてやる!」
数分後、夏海が買ってきたのは、ごく普通のペットボトル入りメロンソーダだった。
「どこが一番高いんだよ」
「自販機の中で一番輝いて見えたんだよ。ほれ、飲め」
夏海は自分でキャップを開け、ゴクゴクと一口飲んでから、そのペットボトルを無造作に俺へと差し出してきた。
ボトルの飲み口には、彼女の唇が触れた水滴が光っている。
「……お前、自分が飲んだやつを普通に渡すなよ」
「はあ? 今更なに言ってんだよ。お前、私の食べかけのパンとか普通に食うだろ。潔癖症アピールか?」
「そういう問題じゃ……」
言い返そうとしたが、夏海のキョトンとした無防備な顔を見ていると、なんだかこちらが意識しているようで馬鹿馬鹿しくなってきた。
「……いや、別にいいけど」
俺はため息をつき、ペットボトルを受け取って一口飲んだ。炭酸の刺激と甘いメロンの風味が喉を潤す。
「うまいか?」
「まあな」
「よし、じゃあ次は格ゲーで勝負だ! 今日こそお前をボコボコにして、泣かしてやるからな!」
夏海は俺の背中をバシンと叩き、対戦ゲームのコーナーへと駆けていく。
その後ろ姿を見ながら、俺はふと口元を緩めた。
一緒にいると、どんな些細なことでもネタになる。退屈なんて言葉は、この一年間で俺の辞書から完全に消え去っていた。
「おい悠真! 早く来い! 逃げる気か!」
「誰が逃げるか! 返り討ちにしてやるよ!」
俺たちの関係は、どこまでもフラットで、最高に気楽だ。
周りがどれだけ「付き合ってる」と囃し立てようと、俺たちは揺るがない。この「最強の親友関係」という居心地の良い場所が、いつまでも続けばいい。
この時の俺は、心の底からそう信じて疑っていなかったのだ。
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