表紙

俺たち、最高に気が合う「親友」だけど、周りが「早く付き合え」とうるさい

AI Generated Light Novel | 2026-03-28_213237 | Powered by gemini-3.1-pro-preview

Promotional Video

タイトル:『俺たち、最高に気が合う「親友」だけど、周りが「早く付き合え」とうるさい』

第1章:エンカウント即、相棒確定

「おい、そこ! ガードが甘いぞ! 左から回り込めっての!」
「うるせぇ! わかってるけど指が追いつかねぇんだよ!」
けたたましい電子音が鳴り響く駅前のゲームセンター。薄暗いフロアの一角で、俺――桐生 湊(きりゅう みなと)は、額に脂汗を浮かべながらアーケード筐体のレバーを激しくガチャガチャと動かしていた。画面の中では、俺の操る重装甲のキャラクターが、目にも留まらぬコンボ攻撃を食らって宙を舞っている。そして、無情にも画面にデカデカと表示される『K.O.』の文字。
「っしゃあ! これで私の五連勝! ざっけんなよ、100年早いぜ!」
隣の筐体から、バンバンと台を叩いて喜ぶ声が聞こえた。俺は深いため息をつきながら、隣の席に座る「乱入者」を睨みつけた。
そこには、俺と同じ高校の真新しい制服を着た、ポニーテールの少女が座っていた。ぱっちりとした大きな瞳に、形の良い鼻筋。黙っていれば「美少女」というカテゴリに間違いなく分類されるであろう容姿をしているのに、その口から飛び出す言葉はそこら辺のチンピラ顔負けのガサツさだった。
「……お前、女のくせにプレイスタイルがえげつなすぎるだろ。なんだよあのハメ技みたいなコンボ。性格の悪さが滲み出てるぞ」
俺が恨み言を口にすると、彼女は長いポニーテールをバサッと揺らして不敵に笑った。
「はっ、勝負の世界に男も女も関係あるかよ! 負け犬の遠吠えは心地いいなー! どうする? まだ100円玉残ってんなら、とことん付き合ってやるけど?」
「言ったな? 上等だ、次こそボコボコにして泣かしてやる!」
そこから俺たちは、まるで親の仇でも取るかのように対戦を繰り返した。結果は全十戦して、五勝五敗。最後はお互いに息を切らしながら、画面の『GAME OVER』の文字を見つめていた。
「……お前、口だけじゃなくて案外やるじゃん。最後のは完全に私が油断した」
「お前こそ、見た目に似合わず反射神経バケモノかよ。俺のフェイント、全部見切ってたじゃねぇか」
気づけば、俺たちの間には不思議な連帯感が生まれていた。初対面で、しかも名前も知らない相手なのに、まるで昔からの悪友のような距離感。ゲーセンを出た俺たちは、自然な流れで近くの自動販売機に向かい、お互いに缶ジュースを奢り合った。
「ぷはーっ! 激戦の後のコーラは最高だな!」
彼女は炭酸を一気に流し込み、豪快に口元を拭う。その無防備すぎる姿に、俺は呆れながらも自分の缶コーヒーを開けた。
「俺は桐生湊。お前、名前は?」
「私? 私は夏目咲(なつめ さき)。今日からそこの高校の1年だ」
「……奇遇だな。俺もだ。というか、よく見たらお前のネクタイの色、俺と同じじゃん」
「マジで!? じゃあ同級生かよ! アハハ、よろしくな湊! お前、なかなか見どころあるから、私の専属スパーリングパートナーに任命してやる!」
バシッと遠慮なく背中を叩かれ、俺は思わずむせそうになった。痛えよ、力加減バグってんのか。
だが、なぜだろう。このガサツで男勝りな夏目咲という少女と一緒にいると、不思議と居心地が良かった。気を遣う必要もなく、思ったことをそのまま口に出せる。それは俺にとって、この上なく楽な関係だった。
そして翌日。俺たちが同じクラスで、しかも隣の席だということが判明し、「運命じゃん!」と大笑いする咲に、俺も「悪縁だろ」とツッコミを入れながら笑い合った。
これが、俺と咲――後に周囲から「絶対に付き合ってる」と誤解され続けることになる、最高の親友との出会いだった。


第2章:俺たちの日常は漫才か何かか

高校2年の初夏。俺と咲は、相変わらず「最高の親友」としてのポジションを確固たるものにしていた。
「湊! 右だ! 右から陽動しろ! 私が正面突破で活路を開く!」
「お前はアホか! たかが購買のパン争奪戦で戦場みたいな指示出してんじゃねぇ! そもそも陽動ってなんだよ、ただの昼休みだぞ!」
チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出し、俺たちは購買部へと続く廊下を猛ダッシュしていた。今日のターゲットは、火・木限定で販売される幻の「特製激辛焼きそばパン」。咲の大好物であり、これを手に入れるためには他の生徒たちとの熾烈な生存競争を勝ち抜かなければならない。
「甘いぞ湊! 購買のおばちゃんは動きの素早い奴を優先する傾向にある! お前がデカい図体で視界を遮っている間に、私が素早くパンをかっさらう。完璧なフォーメーションだ!」
「お前のその無駄な分析力、テスト勉強に活かせよな!」
息の合った(?)連携プレイにより、俺たちは無事に激辛焼きそばパンを二つゲットし、屋上へと凱旋した。初夏の風が心地よく吹く中、フェンスに寄りかかりながら戦利品をかじる。
「んーっ! この舌が痺れる辛さがたまらん! 湊、お前も早く食えよ!」
「わかってるよ。……辛っ! なんだこれ、罰ゲームか!?」
「だらしねぇなー、その程度の辛さで泣き言言ってんじゃないよ!」
俺たちが口から火を吹きそうになりながらパンを食べていると、屋上の扉がギイッと開き、共通の男友達である田中が弁当箱を持って現れた。
「お前ら、相変わらず夫婦漫才やってんなー。もう高校2年なんだし、いい加減付き合っちゃえよ」
田中のその言葉に、俺と咲はパンを飲み込むのも忘れて、完璧にハモった声を出した。
「「はぁ!?」」
「どこをどう見たらそうなるんだよ、田中。目ぇ腐ってんのか? こいつは俺の悪友であり、親友であり、ただのゲームのマルチプレイ要員だぞ」
俺が呆れたように反論すると、咲も首がもげるほど激しく頷いた。
「そうそう! 私が湊なんかと付き合うわけないだろ! こいつは私のサンドバッグ兼、パシリ兼、非常食だ!」
「おい、最後の非常食ってなんだ。俺はお前の食料じゃねぇ」
「まぁいいじゃん。とにかく、私たちに恋愛感情とか一ミリもないから! なぁ、湊!」
「おう。俺だって、こんな色気ゼロのゴリラ女、間違っても恋愛対象になんか見れねぇよ」
「ゴリラって言ったなテメェ! 表出ろ!」
「ここ屋上の外だろうが!」
ギャーギャーと騒ぎ立てる俺たちを見て、田中は「はいはい、ごちそうさま。お前らのそういうとこ、傍から見たら完全にバカップルだからな」とため息をついた。
バカップル? 冗談じゃない。俺たちはただ、最高に気が合う親友なだけだ。休みの日に「新発売の激辛ラーメン食いに行くぞ」と誘い合い、汗だくになりながら「辛え!」「水よこせ!」と騒ぐ。そんな男友達のような関係が、俺にとっては一番心地いいのだ。
「ほら湊、口の周りにソースついてるぞ。子どもかよ」
咲が不意に手を伸ばし、俺の口元を指で拭った。そして、その指をペロリと舐める。
「……おい、お前今、何気なくとんでもないことしたぞ」
「ん? なにが?」
きょとんとする咲。こういう無自覚な距離の近さが周囲の誤解を招くのだと、何度言ってもこいつには理解できないらしい。俺は顔が熱くなるのをごまかすように、「もう一個のパンも食うぞ!」と話題を逸らした。俺たちの日常は、今日も騒がしく過ぎていく。


第3章:お泊まり会という名のサバイバル

深夜、ホラーゲームの途中でベッドに寄りかかって寝てしまった咲の無防備な寝顔を、湊がドキッとしながら見つめ、タオルケットを掛けようとするシーン。
深夜、ホラーゲームの途中でベッドに寄りかかって寝てしまった咲の無防備な寝顔を、湊がドキッとしながら見つめ、タオルケットを掛けようとするシーン。

夏休みの真っ只中。連日の猛暑で外に出る気力も失せ、クーラーの効いた部屋でベッドに寝転がっていると、突然インターホンが乱暴に鳴り響いた。
「おい湊! 開けろ! 私だ!」
ドアの外から聞こえてきたのは、聞き慣れたガサツな声。ドアを開けると、そこにはスーパーのビニール袋を両手に下げた咲が立っていた。ショートパンツに大きめのTシャツという、ラフすぎる格好だ。
「……なんでお前がここにいるんだよ。というか、なんで俺の親が今日から旅行でいないこと知ってんだ」
「お前の母ちゃんからLINEきたんだよ。『湊がちゃんとご飯食べてるか心配だから、咲ちゃん様子見てあげて』ってな! というわけで、今日は私が男飯を作ってやる!」
「お前、一応女子なんだから『男飯』って言うなよ……」
上がり込んできた咲は、勝手知ったる他人の家という態度でキッチンに直行した。袋から取り出されたのは、大量の豚肉、ニラ、そして丸ごとのニンニク。
「おい、ちょっと待て。嫌な予感しかしないんだけど」
「ふふん、夏バテ防止にはスタミナだろ! 私特製、ニンニク爆盛り豚ニラ炒めを作ってやるから、テレビでも見て待ってろ!」
数十分後、部屋中に充満する強烈なニンニクの匂いと共に、大皿に山盛りになった茶色い物体が運ばれてきた。見た目は完全に部活帰りの男子高校生が食うヤツだ。
「ほら、食え! 遠慮すんな!」
「……いただきます」
恐る恐る口に運ぶと、強烈なニンニクの風味がガツンと脳天を突き抜けた。だが、味は悪くない。いや、むしろ美味い。悔しいが箸が止まらない。
「どうだ? 天才的な美味さだろ!」
「まぁ、食えなくはないな。……明日、誰とも会えねぇけどな」
「アハハ! 親友の特製料理に感謝しろよな!」
食後は当然のようにゲーム大会が始まった。俺の部屋のテレビモニターの前に並んで座り、新作のホラーFPSゲームを起動する。部屋の電気を消し、雰囲気は満点だ。
「うわあああ! 右! 右からゾンビ来てる! 湊、撃て! 早く!」
「撃ってるよ! つーかお前、さっき回復アイテム全部独り占めしただろ! 俺のHPミリしかねぇんだぞ!」
「生き残るためには犠牲も必要だ! 頼む、私の盾になってくれ!」
「お前マジで性格終わってんな!」
ギャーギャーと叫びながら、気づけば時計の針は深夜三時を回っていた。「もう一回! 次こそクリアできる!」と息巻いていた咲の声が、いつの間にか聞こえなくなっていることに気づく。
隣を見ると、咲はコントローラーを握りしめたまま、俺のベッドに寄りかかってスヤスヤと寝息を立てていた。
「……おい、こんなとこで寝るなよ」
声をかけても起きる気配はない。いつもはうるさいくらいに喋り倒す口が静かに閉じられ、ポニーテールを解いた長い髪が肩に掛かっている。窓から差し込む月明かりに照らされたその横顔は、不覚にも「綺麗な女の子」そのものだった。
「……こいつ、黙ってれば本当に美人なんだよな」
無防備すぎるその姿に、俺の胸の奥でドクンと心臓が大きく鳴った。
距離が近い。少し身を乗り出せば、その頬に触れられそうだ。……いやいや、待て待て。相手はあの夏目咲だぞ。ニンニク爆盛りの豚肉を平らげて、俺をゾンビの餌にしようとした極悪人だ。
俺はブンブンと頭を振って、沸き起こった奇妙な感情を「ホラーゲームの余韻で心拍数が上がっているだけだ」と必死に言い聞かせた。
「風邪ひくぞ、バカ」
俺はベッドに置いてあったタオルケットを乱暴に咲に掛け、自分は床にクッションを敷いて横になった。だが、なぜかその夜は、朝までうまく寝付けなかった。


第4章:親友の隣に見知らぬ男がいると、なぜか腹が立つ件

二学期が始まって少し経った秋の日の放課後。俺は部活の助っ人を終え、いつものように咲と一緒に帰るため、待ち合わせ場所である中庭のベンチに向かっていた。
だが、そこには珍しい光景が広がっていた。ベンチの前に立つ咲と、その向かいに立つ見知らぬ他校の男子生徒。なにやら真剣な雰囲気で話し込んでいる。俺は反射的に校舎の陰に隠れ、様子を窺った。
「……前から、ずっと見てました。もしよかったら、僕と付き合ってください!」
男が頭を下げて、咲にスマホの画面――おそらく連絡先の交換画面を差し出している。
告白、だと?
俺の脳内で警報が鳴り響いた。咲が告白されている? あの、口を開けば格ゲーのコンボの話しかしない、色気ゼロのゴリラ女が?
だが、さらに俺を驚かせたのは、咲の反応だった。
「えっと、その……私、そういうのよくわかんなくて……。ごめん、急に言われても困るっていうか……」
いつもなら「は? 恋愛? 100年早いぜ!」と笑い飛ばしそうな咲が、頬を少し赤らめて、もじもじと戸惑っているのだ。なんだその態度は。そんな女の子みたいな顔、俺の前では一度も見せたことがないくせに。
その瞬間、俺の胸の奥で、ドス黒いモヤモヤとした感情が急激に膨れ上がった。
腹が立つ。猛烈に腹が立つ。
どこの馬の骨ともわからない男が、俺の「親友」に気安く声をかけていることも。そして何より、咲が俺に見せないような表情を、他の男に向けていることが、無性に許せなかった。
気づけば、俺は足を踏み出していた。
「おい、わりぃな。こいつ、今日俺と新作ゲームのマルチプレイする約束しててさ。時間が押してんだわ」
俺はずかずかと二人の間に割り込み、咲の手首をガシッと掴んだ。
「え、湊!?」
「な、なんだよお前! 急に割り込んできて……彼氏かよ!」
男が不満げに声を荒げる。俺は男を鋭く睨みつけ、冷たい声で言い放った。
「……彼氏じゃねぇよ。ただの『親友』だ。でも、こいつのスケジュールは俺が管理してんだよ。行くぞ、咲」
俺は有無を言わさず、咲の手を引いてズンズンと歩き出した。背後から何か文句が聞こえた気がしたが、無視した。
そのまま学校を出て、夕暮れの通学路を無言で歩く。繋いだままの咲の手首が、やけに熱く感じられた。
「……おい、湊。もう手、離していいぞ。助かった〜、なんか面倒なことになりそうだったし」
しばらくして、咲がいつもの調子で笑いかけてきた。俺はハッとして手を離し、気まずさを隠すようにそっぽを向いた。
「お前、あんな風に告白されることあるんだな。世の中、物好きな奴もいるもんだ」
「失礼だな! 私だって一応女だぞ! たまにはあんな風にチヤホヤされることだってあるんだよ!」
「ふん。お前と付き合う奴なんて、命がいくつあっても足りねぇよ。デート中に『ゲーセン行くぞ!』とか言って格ゲーの対戦させられるのがオチだろ」
「なんだとコラ! 私だって、彼氏ができたらちゃんと女の子らしく……女の子らしく……いや、無理だな。やっぱり湊以外と遊んでもつまんないし」
咲はカラカラと笑いながら、なんでもないことのようにそう言った。「湊以外と遊んでもつまんない」。その言葉が、俺の胸の奥に深く突き刺さる。
「……バカ。そういうこと、他の男の前で言うなよ」
「え? なんで?」
「いいから! ほら、早く帰ってマルチプレイすんぞ!」
俺は早足で歩き出しながら、自分の顔が赤くなっているのを自覚していた。
親友が他の男に取られるのが嫌だ。そんな子どもじみた独占欲だと、自分に言い聞かせようとした。だが、手に残る咲の体温と、彼女の言葉が、俺の中の『親友』という定義を確実に揺るがし始めていた。


第5章:『最高の親友』のゲシュタルト崩壊

土砂降りの雨の中、公園の東屋で雨宿り。寒そうにする咲に湊が自分の服を被せ、咲が「ずっと親友なのかな」と真剣な眼差しで湊を見上げるシーン。
土砂降りの雨の中、公園の東屋で雨宿り。寒そうにする咲に湊が自分の服を被せ、咲が「ずっと親友なのかな」と真剣な眼差しで湊を見上げるシーン。

季節は進み、肌寒い風が吹き始める秋の終わり。高校の文化祭が目前に迫っていた。
俺と咲はクラスの出し物である「お化け屋敷」の買い出し係に任命され、放課後のホームセンターで大量のダンボールや絵の具を買い込んでいた。
「重っ! なんで私がこんな力仕事しなきゃなんないんだよ!」
「文句言うな。じゃんけんで負けたお前が悪いんだろうが。ほら、ちゃんと持て」
両手に荷物を抱えながら文句を垂れる咲と、いつものように言い合いをしながら帰り道を歩いていた。だが、空には急速に黒い雲が広がり、ポツリ、ポツリと冷たい雨が降り始めた。
「うわっ、雨!? マジかよ、天気予報晴れだったじゃん!」
「走るぞ! ダンボール濡らしたらシャレになんねぇ!」
俺たちは慌てて走り出し、近くの公園にある東屋(あずまや)に逃げ込んだ。屋根の下に荷物を下ろした瞬間、雨はバケツをひっくり返したような土砂降りへと変わった。
「はぁ〜、危機一髪だったな。ダンボールは無事だ」
「お前、自分の心配よりダンボールかよ……って、お前めちゃくちゃ濡れてんじゃねぇか」
ふと見ると、咲の薄手のブラウスは雨に濡れて肌に張り付き、肩のあたりが寒そうに小刻みに震えていた。俺は無言で自分の着ていた厚手のカーディガンを脱ぎ、咲の頭からバサッと被せた。
「わっ、なんだよ急に」
「風邪ひくぞ、バカ。それ着てろ」
「……お前こそ、バカ。シャツ一枚じゃ寒いだろ」
口では憎まれ口を叩きながらも、咲はカーディガンの袖に腕を通し、ギュッと前を合わせた。俺よりも二回りほど小さい彼女が俺の服を着ている姿は、なんだか見慣れない保護欲を掻き立てるものだった。
雨音だけが、東屋の周囲を激しく叩いている。いつもなら沈黙を埋めるようにどちらからともなくふざけた会話を始めるのに、今日に限ってなぜか言葉が出てこない。
薄暗い空間。雨の匂い。そして、すぐ隣にいる咲の存在感。
距離が近い。肩が触れ合いそうな距離で、咲のシャンプーの香りが雨の匂いに混じって鼻をくすぐる。
ふと、咲がこちらを見上げた。いつもはおどけている大きな瞳が、今は驚くほど真剣な光を帯びて俺を見つめている。
「……なぁ、湊」
「ん、なんだよ」
「私たちって、ずっとこのまま『親友』なのかな」
唐突な問いかけに、俺の心臓がドクンと跳ねた。
「……どうしたんだよ、急に。らしくねぇな」
「いや、最近よく思うんだよ。お前と一緒にいるのが当たり前すぎて……もし、お前が他の誰かと付き合ったりして、私の隣からいなくなったら、私どうなるんだろうって。考えただけで、なんか……スゲー嫌な気分になる」
咲は俯き、自分のつま先を見つめながらポツリポツリと語った。
その言葉を聞いて、俺の中でこれまで必死に押さえ込んでいた感情のダムが、音を立てて決壊した。
俺も同じだ。こいつが他の男の隣で笑うなんて、想像しただけで吐き気がする。一緒にバカやって、ゲームして、くだらないことで笑い合う。そんな俺たちの「日常」を、誰にも渡したくない。
これは友情なんかじゃない。もっと泥臭くて、独占欲にまみれた、明確な『恋』だ。
「……いなくならねぇよ」
俺は、震えそうになる声を必死に抑え、できるだけ低く、力強い声で言った。
「俺は、お前の隣からいなくならない。……ずっと一緒にいてやるよ」
咲が顔を上げる。俺と視線がぶつかる。お互いの瞳の中に、言葉にできない熱い感情が渦巻いているのがわかった。
「ほんとか? 絶対だな?」
「ああ、絶対だ。俺はお前の、最高の相棒だからな」
今はまだ、「相棒」という言葉でごまかすしかなかった。このギリギリのバランスを崩すのが、怖かったからだ。
だが、俺は確信していた。『最高の親友』というゲシュタルト崩壊を起こしたこの関係が、もう長くは続かないということを。


第6章:これは友情の延長線上にある、宣戦布告だ

季節は冬。吐く息が白く染まる12月の放課後。
俺は、誰もいない寒空の屋上に咲を呼び出していた。
「おい湊、どうしたんだよこんな寒いとこに呼び出して。また格ゲーの挑戦状か? いいぜ、受けて立ってやる!」
マフラーに顔をうずめながら現れた咲は、相変わらずの調子で拳を握りしめている。俺は小さく息を吐き、冷たい風で火照る顔を冷ましながら、まっすぐに彼女を見つめた。
「いや、今日はゲームの話じゃない。……お前に、言わなきゃいけないことがあるんだ」
俺の真剣な表情と、いつもと違う低いトーンの声に、咲もふざけるのをやめて戸惑いの表情を浮かべた。
「なんだよ、改まって。……なんか、悪い知らせとか?」
「俺たち、出会ってからずっと『最高の親友』としてやってきたよな。周りからどれだけ『付き合え』って言われても、俺たちは友情だって信じてきた。……でも、俺はもう、その肩書きを降りることにした」
その言葉を聞いた瞬間、咲の顔から血の気が引くのがわかった。
「……は? な、なんだよそれ。お前、私と絶交する気か!? 私が昨日、お前のプリン勝手に食ったからか!? ごめんって! ちゃんと新しいの買ってくるから!」
必死にすがりつくような目で俺の袖を掴む咲。その不器用な姿がいとおしくて、俺は思わず苦笑してしまった。
「バカ、違う。プリンの恨みは深いけど、そんなことで絶交なんかするかよ」
俺は、袖を掴む咲の手を、自分の手でそっと包み込んだ。冷え切った彼女の手のひらに、俺の体温を伝えるように。
「そうじゃなくて……俺は、お前が好きだ。親友としてじゃなく、一人の女として、お前を手に入れたい」
風が止んだ。屋上には、どこからか聞こえる下校のチャイムの音だけが響いている。
咲は目を丸くして、俺の顔と、繋がれた手とを交互に見つめた。そして、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げた。
「お、お前……本気で言ってるのか!? 熱でもあんのか!? 私だぞ!? ガサツで、ゲームばっかしてて、色気なんて欠片もない、お前のサンドバッグだぞ!?」
パニックになった咲が早口でまくしたてる。俺はそんな彼女の言葉を遮るように、もう一歩距離を詰めた。
「お前だからいいんだよ。お前と一緒に笑って、ふざけて、たまに本気で喧嘩して……そういう騒がしい日常を、これからもずっと俺の隣で過ごしてほしい。他の誰でもない、夏目咲という女に、俺の隣にいてほしいんだ」
俺の言葉が心に届いたのか、咲の瞳が潤み始める。彼女は俯き、繋がれた手にギュッと力を込めた。
「……卑怯だぞ、湊。そんな真剣な顔で言われたら、私が茶化せなくなるだろ」
「茶化すな。本気で答えてくれ」
数秒の沈黙の後。咲は顔を上げ、涙目のまま、あのゲーセンで初めて出会った時のような不敵で、だけど最高に可愛い笑顔を浮かべた。
「……仕方ないな。お前みたいな口うるさくて、格ゲーのガードが甘いバカの相手ができるのは、世界で私くらいだろ」
「それ、俺のセリフなんだけど」
「今日から、親友の肩書きは返上だ。……よろしくな、私の『彼氏』!」
「おう、よろしくな、俺の『彼女』!」
お互いに照れ隠しのように笑い合いながら、俺たちは初めて、親友の枠を越えて抱きしめ合った。冷たい冬の風も、今の俺たちには全く気にならなかった。
これは、俺たちなりの宣戦布告だ。「友情」という名目で築き上げてきた最強の絆をベースにして、これから始まる新しい関係という名の未知のゲームへの。


第7章:恋人になっても、俺たちのノリは変わらない

夕暮れの帰り道、付き合い始めた二人が手を繋ぎ、湊が照れ隠しでその繋いだ手を自分のパーカーのポケットに入れて歩く甘いシーン。
夕暮れの帰り道、付き合い始めた二人が手を繋ぎ、湊が照れ隠しでその繋いだ手を自分のパーカーのポケットに入れて歩く甘いシーン。

「おい湊! そこ右! 右だって言ってんだろ! 敵の裏を取れ!」
「うるせぇ! こっちに敵がいっぱいいるんだよ! お前が援護しろ!」
春の陽気が心地よい週末。俺たちは付き合い始めて数ヶ月が経っていたが、相変わらず駅前のゲーセンで並んで格ゲーのマルチプレイに熱中していた。
「っしゃあ! これでステージクリア! 私の神がかったアシストのおかげだな!」
「はいはい、俺が前線で体張ったからだろうが。……ほら、喉渇いたろ。ジュース奢ってやるよ」
「おっ、太っ腹! じゃあ私、新作のいちごミルク!」
周りから見れば、以前と何も変わらない、ただ口の悪い「親友」の姿そのものだろう。田中をはじめとするクラスの連中にも「お前ら、付き合い始めたっていうのに全然イチャイチャしねぇな」と呆れられている。
だが、俺たちにとっては、このバカ騒ぎする日常こそが何よりの幸せなのだ。
ゲーセンを後にして、夕暮れ時の街を二人で歩く。
「なぁ、今度の休み、どこ行く? たまには遠出でもするか?」
「おっ、いいね! じゃあ遊園地はどうだ? お前、絶叫系で泣かせてやるよ。私が一番怖いジェットコースターの最前列に乗せてやる!」
「上等だ! 泣くのはお前の方だからな。降りた後で腰抜かしても置いて帰るからな」
「なんだとコラ!」
いつものように漫才のような言い合いをしながら歩く。
しかし、以前と決定的に違うことが一つだけある。
ふと、咲が歩幅を合わせ、俺の右手に自分の左手を自然に絡ませてきたのだ。
「……なんだよ」
「ん? 別に。……ちょっと手が冷たかっただけだ」
そっぽを向きながら、わずかに耳まで赤くしている咲。その不器用な甘え方が、俺の心臓を容赦なく撃ち抜く。
「そうだな。……ほら、こっち入れろ」
俺は繋いだ手を、自分の着ているスプリングコートの大きめのポケットに突っ込んだ。ポケットの中で、咲の指が俺の指にぎゅっと絡みつく。
「……あったかい」
「だろ? 俺の体温を分けてやってるんだから、感謝しろよ」
「はいはい、ありがとさん」
照れ隠しの軽口を叩きながらも、お互いの顔には自然と笑みがこぼれていた。
「親友」という最高の土台の上に築かれた、俺たちの恋愛。
お互いのダメなところも、ガサツなところも全部知っていて、それでも一緒にいるのが一番楽しいと思える関係。
きっと俺たちは、これから先何年経っても、こうして言い合いをしながら、ゲームをして、たまにバカみたいに笑い合って生きていくのだろう。
「なぁ、湊」
「ん?」
「私、お前の彼女になれて、結構……いや、かなり楽しいぞ」
「……奇遇だな。俺も、お前の彼氏やってんの、悪くないと思ってる」
夕日に照らされた帰り道。二人の影が一つに重なる。
周りからどう思われようと関係ない。
俺たちは、最高に気が合う親友で、そして、誰にも負けない最強のカップルなのだから。