表紙

俺の最高の親友(♀)との距離感がバグりすぎて、周りから「それもう夫婦だろ」と言われる件

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タイトル:『俺の最高の親友(♀)との距離感がバグりすぎて、周りから「それもう夫婦だろ」と言われる件』

第1章 出会い編 ——エンカウント・オブ・ザ・腐れ縁

「ねえ、そこの君。私の人生の相棒にならない?」

高校一年生の春。桜の花びらが窓の外を舞い、真新しい制服の匂いが教室に充満している、そんな初々しい入学式の直後だった。
俺、相葉悠真(あいばゆうま)の高校生活は、隣の席になった女子生徒からの唐突すぎる一言で幕を開けた。
声をかけてきたのは、星野莉子(ほしのりこ)。肩に切り揃えられたサラサラの黒髪に、ぱっちりとした大きな瞳。黙っていれば間違いなく「清楚系美少女」のカテゴリーに分類されるであろう容姿をしている。
しかし、その口から飛び出したセリフは、清楚とは程遠い、まるでRPGの村人が勇者にパーティー加入を迫るかのような電波なものだった。

「……は? 相棒?」
俺が間抜けな声を漏らすと、星野はビシッと俺に向かって人差し指を突きつけてきた。
「そう! 相棒! 見たところ、君はツッコミの才能に溢れた顔をしている。私のボケを完璧にレシーブしてくれそうな、そんな逸材のオーラを感じるのよ」
「どんなオーラだよ。初対面の男に向かって言うセリフじゃねえだろ」
「ほら! 今の間の取り方、完璧じゃない! やっぱり私の目に狂いはなかったわ。さあ、共にこの退屈な高校生活という名の荒野を駆け抜けようぞ、ブラザー!」
「誰がブラザーだ。ていうか、なんでお前そんなにテンション高いんだよ。入学初日だぞ?」
「ふっ、甘いな相葉くん。初日のスタートダッシュでキャラを確立しておかないと、今後のカースト制度で生き残れないのよ」
「お前のそのキャラ、絶対浮くからやめとけ」

俺がため息混じりにそう返すと、星野は「あはは!」と豪快に笑い飛ばした。その屈託のない笑顔を見た瞬間、俺の中で「こいつはヤバい奴だ」という警戒心が、「まあ、面白いからいっか」という謎の納得感に変わってしまったのだから、人間の直感というのは恐ろしい。

そこからの高校三年間は、まさに嵐のようだった。
俺と星野の波長は、恐ろしいほどに噛み合った。休み時間になれば、どちらからともなくくだらない話題を振り、ボケとツッコミの千本ノックが始まる。
たとえば、体育祭の二人三脚。
「おい星野、足引っ張んなよ。俺は本気で優勝を狙ってるんだからな」
「相葉こそ、私の神速についてこれるかな? 私の右足は風を切り裂くペガサスと呼ばれているのよ」
「そのペガサス、さっき準備体操で盛大に足つってたよな?」
「……あれはペガサスの羽休めよ!」
そんなバカな会話をしながらも、いざ本番が始まると、俺たちは一言も発することなく完璧なシンクロ率を見せつけ、ぶっちぎりの一位でゴールテープを切った。周囲のクラスメイトたちが「あいつら、絶対付き合ってるだろ……」と引いた目で見ていたことなど、当時の俺たちは知る由もなかった。

「お前、ほんと男友達みたいだな。気遣わなくて楽でいいわ」
いつかの帰り道、夕日に染まる河川敷を歩きながら俺がそう言うと、星野は缶ジュースをごくりと飲み干して、ニカッと笑った。
「でしょ? 相葉も、私にとっては最高の親友だよ。これからもよろしくな、相棒!」
「おう、よろしく」
俺たちは拳をこつんとぶつけ合った。
そう、俺たちは「親友」なのだ。性別の壁を越えた、最高の友情。
俺は星野を女として意識したことなんて一度もないし、星野も俺をただの男友達としか見ていない。周囲からどれだけ「付き合ってるんでしょ?」と冷やかされようと、「いやいや、親友だから!」と声を揃えて否定してきた。
そうして三年の月日が流れ、俺たちは同じ大学、同じ学部に進学した。
高校時代から続くこの「最高の親友」という関係は、大学生活という新たなステージでも、永遠に変わらないものだと、俺は本気で信じていたのだ。


第2章 日常編 ——日常という名の漫才ライブ、あるいは俺たちの通常運転

学食で星野が相葉にハンバーグを「あーん」と食べさせる、距離感がバグった日常のシーン
学食で星野が相葉にハンバーグを「あーん」と食べさせる、距離感がバグった日常のシーン

「おい星野! お前、また俺の唐揚げ食っただろ!」
大学二年の春。昼時の喧騒に包まれた学食で、俺の怒号が響き渡った。
俺の目の前では、星野莉子が箸の先につまんだ唐揚げを、悪びれもせずに口に放り込もうとしているところだった。
「え? 唐揚げ? ああ、この茶色くてジューシーな肉の塊のこと? これはね、自然界の摂理に従って私の胃袋に収まる運命だったのよ」
「どんな摂理だ! 俺が四百五十円払って買った唐揚げ定食のメインディッシュだぞ! 返せ!」
「細かいこと気にするとハゲるよ、相葉。ほら、あーん」
星野は自分の頼んだハンバーグ定食から、ハンバーグを一口大に切って、俺の口元に突き出してきた。
「……ん」
俺は無意識に口を開け、そのハンバーグをパクリと食べる。デミグラスソースの濃厚な味が口に広がった。
「美味しいでしょ?」
「まあな。……って、誤魔化されるか! 唐揚げの恨みはハンバーグ一口じゃ消えねえからな!」
「じゃあもう一口。はい、あーん」
「ん、モグモグ……いや、だから!」

「お前ら、相変わらず付き合ってんのか付き合ってないのかわかんねーな」
俺たちが不毛な争いを繰り広げていると、同じ学部の友人であるタツヤが、呆れたような顔でトレイを持って向かいの席に座ってきた。
「あ、タツヤ。お疲れー」
星野がひらひらと手を振る。俺も「おう」と短く返した。
タツヤは俺たちの顔を交互に見ながら、ため息をついた。
「お前らさあ、周りの目ってものをもっと気にしろよ。今『あーん』してたろ。どこのバカップルだよ」
「はあ? バカップル?」
俺と星野は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「「付き合ってねーよ! 親友だろ!」」
見事なハモリ。俺たちはハイタッチを交わす。
「ほら見ろタツヤ。俺たちのこの息の合い方。完全に男同士の友情ノリだろ。星野なんて、中身はほぼその辺の男子大学生と変わんねえからな」
「ちょっと相葉、乙女に向かって男子大学生とは失礼な。せめてイケメン男子大学生と言いなさい」
「そこじゃねえよ。お前、昨日も俺の家でゲームしながらポテチ食って、そのままカーペットでよだれ垂らして寝てただろ。あれのどこが乙女だ」
「わわっ! バカ、タツヤの前で私のプライベートな失態をバラすな!」
星野は顔を赤くして、俺の肩をバシバシと叩いてきた。痛い痛い。
タツヤは頭を抱えている。
「いや……お前ら、親友同士で『あーん』したり、家で寝落ちしたりするか普通? 完全に距離感バグってるぞ。他の女子が見たら絶対勘違いするって」
「勘違いも何も、事実として俺たちは親友なんだから仕方ないだろ」
俺は肩をすくめた。
「そうそう。相葉は私の最高の相棒であり、サンドバッグであり、非常食だからね」
「俺の扱いひどくないか?」
「愛ゆえのイジりだよ、ブラザー」
星野は得意げにウィンクをしてきた。
タツヤは「もう勝手にしろ……」と呟きながら、自分のカツカレーを食べ始めた。

周りからどう見られようと、俺と星野の関係は「親友」だ。
一緒にいてこれほど楽な相手はいない。気を遣う必要もないし、沈黙が苦にならない。思いついたボケを投げれば必ずツッコミが返ってくるし、その逆も然り。
講義中にはくだらないLINEを送り合い、バイト先の愚痴を肴に安い居酒屋で終電まで語り合う。
俺にとって星野は、日常を彩る最高のスパイスであり、欠かすことのできない存在だった。
だからこそ、この心地よい関係が「恋愛」なんていう面倒くさいものに発展するはずがないと、俺は疑いもしなかったのだ。
——そう、この時はまだ。


第3章 距離が縮まる編 ——ノーガード戦法のおうちデート

相葉の部屋で夜遅くまでゲームをした後、星野が相葉の肩に寄りかかって無防備に寝落ちするシーン
相葉の部屋で夜遅くまでゲームをした後、星野が相葉の肩に寄りかかって無防備に寝落ちするシーン

週末の午後。俺が一人暮らしをしている1Kのアパートで、俺はベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた。
時刻は午後三時。休日の昼下がりという、最も生産性のない、だが最も至福の時間を満喫していると、玄関のドアから「ガチャリ」と金属音が響いた。
合鍵が開く音だ。
「うっすー。相葉、生きてる?」
聞き慣れた声と共に、星野莉子が我が物顔で上がり込んできた。手にはコンビニのレジ袋が二つぶら下がっている。
「お前な……いくら合鍵渡してるからって、せめてチャイムくらい鳴らせよ。俺が全裸で踊ってたらどうするんだ」
「全裸で踊ってたら即座に動画撮ってSNSにアップするに決まってるでしょ。バズるよ、きっと」
「俺の尊厳を犠牲にしてバズろうとすんな」
俺がため息をつきながら起き上がると、星野は靴を脱ぎ捨ててフローリングに上がり、ドスッと音を立てて俺のベッドにダイブしてきた。
「あー、疲れた! バイト先の店長がさあ、また理不尽なシフト組んできてマジでダルい。相葉、慰めて」
「はいはい、よしよし。可哀想に。で、その手にあるコンビニ袋は何だ?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。じゃーん! 新作の激辛ポテチと、コーラ、そして……深夜までぶっ続けでやるためのスマブラの新作だ!」
星野はドヤ顔でゲームのパッケージを掲げた。
「お前、また俺の家で徹夜する気かよ。一応言っとくけど、ここ、年頃の男の一人暮らしの部屋だぞ?」
俺がジト目で睨むと、星野は心底不思議そうな顔をした。
「え? なに? 私を襲う気? やだー、相葉のえっち」
感情が一切こもっていない、見事なまでの棒読みである。
「誰が襲うか。お前は野生のゴリラと同じカテゴリーだ。俺は動物愛護団体に怒られるような真似はしない」
「ゴリラに謝れ。そして私にも謝れ。まあいいや、早くコントローラー貸して。今日こそ相葉をボコボコにしてやるんだから」

そこからの時間は、まさに戦場だった。
「おい! 今の絶対ガード間に合ってただろ! ズルいぞ星野!」
「甘い甘い! 相葉の動きなんてお見通しなんだよ! くらえ、私の必殺メテオスマッシュ!」
「うおぉぉぉ! 落ちる落ちる落ちる!」
画面に向かって叫びながら、俺たちは肩をぶつけ合い、時に相手のコントローラーを邪魔しながら白熱したバトルを繰り広げた。
気がつけば外はすっかり暗くなり、時計の針は夜の十一時を回っていた。
「……ふあぁ」
隣で星野が大きなあくびをした。
「なんだ、もう眠いのか? 雑魚だな」
「違うし。これは……目を閉じて心の眼で戦うための準備だし……」
星野の言葉は次第に小さくなり、コントローラーを握ったまま、コクリコクリと船を漕ぎ始めた。
そして数分後、彼女の頭がゆっくりと傾き、俺の肩にコツンと寄りかかった。
「おい、星野?」
声をかけても返事はない。すうすうという規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
俺はコントローラーを置き、肩にもたれかかっている星野の顔を見下ろした。
普段のうるさい口はしっかりと閉じられ、長いまつ毛が頬に影を落としている。白くて滑らかな肌。無防備に開かれた襟元からは、わずかに甘いシャンプーの香りが漂ってきた。
「……こいつ、黙ってればほんと、可愛いんだよな」
無意識のうちに、そんな言葉が口からこぼれた。
その瞬間、自分の心臓が「ドクン」と大きく鳴ったのを感じて、俺は慌てて首を振った。
バカか俺は。相手はあの星野だぞ。さっきまで「ゴリラ」呼ばわりしていた親友だ。男友達が家で寝落ちしたからって、ドキドキしてどうする。
「……風邪引くぞ、アホ」
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、ベッドから毛布を引っ張り出し、星野の肩にそっとかけた。
星野は「ん……あいば……」と寝言をむにゃむにゃと呟きながら、毛布に顔を擦り付けた。
その無防備すぎる姿に、俺の胸の奥で、今まで感じたことのない正体不明のモヤモヤとした感情が渦巻き始めていた。
しかし俺は、その感情に名前をつけることを恐れるように、星野をベッドに寝かせ、自分は床に座布団を敷いて横になった。
「おやすみ、親友」
暗闇の中で呟いた言葉は、誰に聞かせるわけでもない、自分への言い訳のように響いた。


第4章 嫉妬編 ——ジェラシー・イン・ザ・ブラインド

大学のサークル主催の新歓コンパ。居酒屋の広い座敷は、学生たちの熱気とアルコールの匂いで充満していた。
俺は部屋の隅でウーロン茶をちびちびと飲みながら、斜め向かいの席で行われている光景を、無表情のまま見つめていた。
「星野ちゃんってさ、ほんと可愛いよね。彼氏とかいないの?」
「えー? 褒めても何も出ないですよ、先輩。彼氏はいませんけど、相棒ならいます」
「相棒って、あそこにいる相葉くんのこと? あんなのただの友達でしょ。もったいないなあ、星野ちゃんみたいな子が。ねえ、この後、二人で抜け出さない?」
星野の隣に陣取っているのは、サークルでも「チャラい」と有名な三年生のイケメン先輩だった。先輩は星野の肩に馴れ馴れしく腕を回し、顔を近づけて口説いている。
星野は「あはは、先輩酔ってますねー」と笑って躱しているが、明らかに困ったような引きつった笑顔を浮かべていた。
その光景を見ていると、俺の胸の奥で、黒くてドロドロとした感情が沸き上がってくるのを感じた。
グラスを持つ手に力がこもる。氷がカチンと音を立てた。
なんだこの感情は。
ただの親友が、他の男に口説かれているだけだ。本来なら「お、星野もついに春が来たか」と笑って冷やかすのが、親友としての正しい態度のはずだ。
なのに、どうしてこんなに腹が立つんだ。あの先輩の腕を今すぐへし折ってやりたい衝動に駆られるのは、一体どういうわけだ。
「……親友として、あんなチャラ男に騙されるのは見てられないからな。うん、それだけだ」
俺は誰に言い訳するでもなく小さく呟くと、立ち上がり、星野たちのテーブルへとズカズカと歩み寄った。
「先輩、お楽しみのところすいません」
俺は先輩と星野の間に無理やり割って入り、星野の腕をガシッと掴んだ。
「え、相葉?」
「こいつ、酒癖悪くて、これ以上飲ませるとここら辺一帯にゲロ吐き散らすんで、俺が連れて帰ります」
「ちょっと相葉! 私そんなに飲んでないし、吐かないし!」
「うるさい、行くぞ」
俺は星野の抗議を無視して、彼女の腕を引っ張ったまま居酒屋を飛び出した。
先輩が後ろで何か言っていたが、知ったことか。

夜の冷たい風が、火照った顔を少しだけ冷ましてくれる。
居酒屋から少し離れた公園まで歩いたところで、星野が俺の手を振り払った。
「ちょっと相葉! なんなの急に。せっかく先輩と楽しく飲んでたのに」
星野はむくれた顔で俺を睨みつけてきた。
その言葉に、俺の中でくすぶっていたイライラが爆発した。
「楽しく飲んでただと? お前、あの先輩がどういうつもりで近づいてきたか分かってんのか! あいつ、サークル内の女子食い散らかしてるって有名な奴だぞ!」
「そんなの知ってるよ! でも、適当にあしらってたじゃん。私だって子供じゃないんだから、自分の身くらい自分で守れるわよ」
「守れてなかっただろ! 肩抱かれて、顔引きつってたじゃねえか。お前は警戒心が足りなすぎるんだよ。俺の部屋で爆睡するのもそうだけど、自分が女だって自覚あるのか!?」
俺の強い口調に、星野は一瞬言葉を失い、目を丸くした。
そして、少しだけ俯いて、小さな声で言った。
「……なに。相葉、私のこと心配してくれたの?」
「……当たり前だろ。親友が変な男に騙されてたら、止めるのが筋だ」
俺が顔を背けながらそう言うと、星野はふっと息を吐き、いつものようなニカッとした笑顔を見せた。
「ふーん。そっか、親友だからか。……まあ、私もあの先輩と飲むより、相葉と馬鹿やってる方が百倍楽しいけどね」
星野のその言葉に、俺の心臓がまた大きく跳ねた。
「……バーカ。だったら最初から俺の隣にいろよ」
「はいはい。ご心配おかけしました、相棒殿」
星野は俺の背中をバンバンと叩きながら笑った。
俺たちは並んで歩き出す。夜道を照らす街灯の下、二人の影が伸びていく。
親友だから心配した。親友だから腹が立った。
そう自分に言い聞かせながらも、俺はもう、自分の中にある感情の正体に気づき始めていた。
これは、ただの友情じゃない。
俺は、星野莉子という一人の女に、強烈な「嫉妬」を抱いていたのだ。
親友の隣は、俺だけの特等席であってほしいと、そう願ってしまっている自分がいることに。


第5章 自覚編 ——パラダイムシフト・イブ

八月の終わり。蒸し暑い夜の空気を切り裂くように、遠くでドーンという花火の音が響いていた。
今日は隣町で大規模な花火大会が開催されている。
俺たちは特に約束していたわけではないが、「暇だし行くか」「屋台の焼きそば食べたい」というノリで、急遽二人で出かけることになった。
待ち合わせ場所の駅前。スマホの時計を見ながら立っていると、「おーい、相葉!」という声が聞こえた。
顔を上げると、人混みの中から小走りで駆け寄ってくる星野の姿があった。
そして、俺はその姿から目が離せなくなってしまった。
紺地に朝顔の柄があしらわれた浴衣。普段は下ろしている髪はうなじが見えるようにアップにまとめられ、涼しげなかんざしが挿してある。
いつもはパーカーにジーンズという男勝りな格好ばかりの星野が、信じられないくらい「女の子」をしていた。
「よっ。待たせたな。どうよ、私の大和撫子っぷりは。惚れ直した?」
星野は俺の前でくるりと一回転し、ドヤ顔で聞いてきた。
俺は心臓のバクバクを悟られないように、必死で平静を装った。
「……まあ、悪くないんじゃないか。ゴリラが浴衣着てるみたいで面白いぞ」
「素直じゃないねえ! ほんとは『星野さん綺麗です、結婚してください』って思ってるくせに」
「誰が思うかバカ。ほら、早く行かないと屋台閉まるぞ」
俺は逃げるように背を向け、歩き出した。顔が熱い。暗くてよかったと心底思った。

花火大会の会場は、想像以上の人混みだった。
右も左もカップルや家族連れで溢れかえっており、少しでも気を抜けばすぐにはぐれてしまいそうだ。
「うわー、すごい人。相葉、はぐれないように気をつけてよ」
星野が俺のTシャツの裾をちょこんと摘んだ。
いつもなら「子供かよ」と笑い飛ばすところだが、今日の俺はどうも調子がおかしい。
浴衣姿の星野から漂う、いつもとは違う大人びた香水のような香り。裾を摘む指先の白さ。そのすべてが、俺の神経を過敏にさせていた。
「……おい、星野」
「ん?」
「裾引っ張られると歩きにくい。ほら、手貸せ」
俺はそう言って、星野の方へ右手を差し出した。
星野は一瞬きょとんとした顔をして、それから少しだけ頬を染めた。
「……なにそれ。子供扱い?」
「迷子になりそうな子供がいるからな」
「むっ。まあいいや、はぐれるよりはマシだし」
星野はぶつぶつと言いながら、俺の手に自分の手を重ねた。
俺はそのまま、星野の手をしっかりと握りしめた。
今まで何度も肩を組んだり、ハイタッチをしたりしてきたのに、こうして「手を繋ぐ」という行為をしたのは初めてだった。
星野の手は、俺の手に比べて一回り小さく、そして驚くほど柔らかかった。
手を繋いだ瞬間、俺の中で「親友」という分厚い壁が、音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。
俺はもう、星野をただの友達として見ることはできない。
この小さな手を、他の誰にも渡したくない。
夜空に、ひときわ大きな花火が打ち上がった。
鮮やかな光が会場全体を照らし出し、俺の隣を歩く星野の横顔を浮かび上がらせた。
花火を見上げる星野の瞳には、色とりどりの光が反射してキラキラと輝いている。
「わあ……綺麗……」
星野が感嘆の声を漏らした。
「……ああ、綺麗だな」
俺は花火ではなく、星野の横顔を見つめながらそう答えた。
ふと、星野が視線をこちらに向けた。俺たちの目が合う。
「ねえ、相葉」
星野は、いつもの元気な声とは違う、少しだけ寂しそうな、静かな声で言った。
「私たちって、ずっとこのままなのかな」
その言葉に込められた意味を、俺は測りかねた。
親友のままでいたいという意味なのか、それとも……。
「……どうだろうな」
俺は握っている星野の手を、ほんの少しだけ強く握り返した。
星野もまた、俺の手を握り返してくれた。
パラダイムシフト。価値観の劇的な変化。
俺たちの中で、何かが決定的に変わり始めていた。この熱帯夜に打ち上がる花火のように、もう後戻りできないところまで。


第6章 告白編 ——チェックメイト・告白

夕暮れの旧校舎裏で、互いの気持ちを打ち明け合い、照れながら手を握り合う告白シーン
夕暮れの旧校舎裏で、互いの気持ちを打ち明け合い、照れながら手を握り合う告白シーン

秋風が冷たくなり始めた十一月。大学の文化祭の最終日。
キャンパス内は祭りの後片付けに追われる学生たちで騒がしかったが、俺たちはその喧騒から逃れるように、人気のない旧校舎の裏手にあるベンチに座っていた。
「あー、疲れた! 模擬店のたこ焼き焼きすぎて、私からソースの匂いしかしないよ」
星野はぐーっと背伸びをしながら、隣で笑っている。
「お前が『私がたこ焼きのプロフェッショナルだ』とか言って、全部の調理引き受けたからだろ。自業自得だ」
「だって、相葉たちが焼くと焦がすじゃん。私の完璧な返しテクニックを見せつけてやったのよ」
いつものような軽口の叩き合い。
しかし、俺の心の中は、かつてないほどの緊張で張り詰めていた。
夏祭りの夜から三ヶ月。俺と星野の関係は、表面上は何も変わっていないように見えた。
相変わらずバカなことを言い合い、俺の部屋に入り浸り、学食で唐揚げを奪い合う。
だが、俺の心の中は完全に変わってしまった。星野の一挙手一投足にドキドキし、彼女が他の男と話しているだけで心がざわつく。
もう限界だった。
「親友」というぬるま湯に浸かり続けることは、今の俺には苦痛でしかなかった。
俺は深呼吸をして、真っ赤に染まる夕焼け空を見上げた。
「……なあ、星野」
「んー? なに?」
「俺さ、お前と親友やめるわ」
その言葉を口にした瞬間、空気が凍りついた。
星野の動きがピタリと止まり、ゆっくりとこちらを向いた。彼女の大きな瞳が、信じられないものを見るように揺れている。
「……え? それって……どういう意味?」
星野の声は微かに震えていた。
「絶交ってこと? 私、なんか相葉を怒らせるようなことした……? もしそうなら謝るから、そんな冗談……」
「冗談じゃない」
俺は星野の言葉を遮り、彼女の正面に向き直った。
星野の目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。それを見て、俺の胸がチクリと痛む。
「怒ってなんかない。ただ、もう俺はお前を『ただの親友』として見ることはできないってことだ」
「……え?」
「夏祭りの時から、いや、もっと前からかもしれない。俺はお前のことが好きだ。友達としてじゃなくて、一人の女として」
俺は誤魔化すことなく、真っ直ぐに星野の目を見つめた。
「お前が他の男と話してるだけで嫉妬するし、お前の無防備な寝顔を見るだけで心臓がうるさくなる。もう、親友のフリをするのは限界だ」
星野は口を半開きにしたまま、完全にフリーズしていた。
「だから、親友はやめる。星野、俺の彼女になってくれ」
静寂が訪れた。
遠くから文化祭の片付けをする声や、カラスの鳴き声が聞こえる。
永遠とも思える数秒間の後。
星野は突然、顔を両手で覆い隠した。
「……星野?」
「……ばか」
両手の隙間から漏れた声は、泣いているようにも、笑っているようにも聞こえた。
「……遅いよ、バカ相葉。ほんと、ツッコミのくせに肝心なところのテンポが遅すぎるんだよ」
星野は両手を外し、顔を真っ赤にして、泣き笑いのような表情で俺を睨みつけた。
「私なんて、ずっと前から相葉のこと好きだったのに」
「……え? マジで?」
予想外の返答に、今度は俺がフリーズする番だった。
「当たり前でしょ! 好きでもない男の家に入り浸ったり、ご飯『あーん』したりするわけないじゃん! ずっとアピールしてたのに、相葉が『親友だから』『男同士のノリだから』って鈍感すぎるから、私どうしていいか分かんなかったんだからね!」
星野はポカポカと俺の胸を叩いてきた。
「え、じゃああの合鍵使って俺のベッドで寝てたのも……」
「相葉に意識してもらおうと思ってのノーガード戦法に決まってるでしょ! この朴念仁!」
俺は頭を抱えた。
つまり、俺たちはとっくの昔に両思いだったのに、お互いに「最高の親友」という都合の良い言葉に縛られて、壮大なすれ違いコントを演じていたということか。
「……なんだそれ。俺たち、最高にアホじゃねえか」
「ほんとだよ。バカバカしい」
俺たちは顔を見合わせ、そして同時に吹き出した。
「あはははは!」
「ふふっ、あはは!」
夕暮れの旧校舎裏に、俺たちの笑い声が響き渡った。
笑い疲れた後、俺は自然な動作で星野の手を取った。
夏祭りの時と同じ、小さくて柔らかい手。でも、あの時とは違う、確かな熱がそこにはあった。
「じゃあ、改めて。俺の彼女になってくれるか?」
「……うん。よろしくね、私の彼氏くん」
星野は、今まで見たどんな笑顔よりも可愛い、とびきりの笑顔でそう答えた。
チェックメイト。
長かった俺たちの「親友ごっこ」は、こうして終わりを告げた。


第7章 エピローグ編 ——エピローグ・ウィズ・ラブ

「おい星野! お前また俺の唐揚げ食っただろ!」
「親友じゃなくて、彼女の特権ね。ジャイアンの法則も恋人バージョンにアップデートされたのよ」
「どんなアップデートだ! 俺の唐揚げは俺の血となり肉となるべき存在なんだよ!」
「細かいこと気にすると愛想尽かすよ、相葉。ほら、あーん」
「……ん、モグモグ」
大学の学食。俺たちのやり取りは、傍から見れば何一つ変わっていなかった。
親友から恋人になっても、俺たちの間に流れる漫才のようなテンポ感や、遠慮のない距離感はそのままだった。
むしろ、遠慮がなくなった分、タチが悪くなったかもしれない。
「お前ら……相変わらず付き合ってんのか付き合ってないのかわかんねーな」
向かいの席に座ったタツヤが、いつものように頭を抱えながらため息をついた。
俺と星野は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「「付き合ってますけど何か?」」
見事なハモリ。
「……えっ?」
タツヤは持っていた箸を落とし、目を限界まで見開いた。
「え? マジで? お前ら、ついにその……一線を越えたっていうか、親友やめたの?」
「おう。こいつがどうしても俺の彼女になりたいって泣いてすがるから、仕方なく俺の広い胸で受け止めてやったんだよ」
「ちょっと相葉! 事実と全然違うでしょ! 相葉が私にベタ惚れで『星野さん好きです付き合ってください』って土下座してきたんでしょ!」
「誰が土下座するか! 記憶捏造すんな!」
ギャーギャーと言い争う俺たちを見て、タツヤは深く、深くため息をついた。
「……お前ら、恋人になっても全然甘さがないな。もっとこう、イチャイチャしろよ」
「してるだろ。これが俺たちのイチャイチャの形なんだよ」
俺が言うと、星野もウンウンと頷いた。
「そうそう。相葉は私の最高の相棒であり、最高の彼氏なんだから。ね?」
星野はそう言って、テーブルの下でこっそりと俺の手を握ってきた。
その手は温かく、俺の心にじんわりとした安心感を与えてくれる。
表面上はバカなことを言い合っていても、俺たちは確かに繋がっている。
「親友」という強固な土台の上に築かれた「恋人」という関係は、きっとどんなカップルよりも無敵だ。
「これからもよろしくな、俺の最高の相棒で、彼女さん」
俺がテーブルの下で手を握り返しながら小声で言うと、星野は嬉しそうに目を細めた。
「こちらこそ。覚悟しなさいよ、彼氏くん」
俺たちの距離感はバグったままだ。
周りから「それもう夫婦だろ」と呆れられようが、俺たちは気にしない。
だって俺たちは、最高に気が合う、世界で一番幸せなカップルなのだから。