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俺の最高の"親友"が、どう見ても俺の彼女すぎる件について

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タイトル:『俺の最高の"親友"が、どう見ても俺の彼女すぎる件について』


第1章『フラグクラッシャーたちの邂逅、あるいは最高の相棒の誕生』

「……またハズレかよ。俺のアカウント、絶対ピックアップ仕事してねぇだろ」
大学の入学式という、人生においてそこそこ重要なイベントが終わった直後。俺――相沢透(あいざわとおる)は、キャンパスの隅にあるベンチに腰掛け、スマホの画面を睨みつけていた。
周囲には、真新しいスーツに身を包み「これからよろしくお願いします!」と爽やかに挨拶を交わす新入生たちの姿がある。サークルのビラ配りに奔走する先輩たちの活気ある声が飛び交う中、俺は一人、絶賛配信中のソーシャルゲームのガチャ画面と血で血を洗う死闘を繰り広げていた。
「なけなしの石を突っ込んだってのに、なんで星3の武器ばっかり出やがるんだ。俺が欲しいのは大剣使いの美少女であって、無骨な鉄の塊じゃないんだよ……!」
ギリッと奥歯を噛み締め、最後の一回分のガチャボタンをタップする。画面に金色の演出は……出ない。銀色だ。確定でハズレである。俺は天を仰ぎ、深く、ひたすらに深い溜息を吐き出した。
「あーあ。そりゃダメだよ。乱数調整してから引かないと」
不意に、背後から声が降ってきた。
「……は?」
振り返ると、そこには見知らぬ女子が立っていた。
春の微風に揺れる、肩までの長さの艶やかな黒髪。ぱっちりとした二重まぶたに、少しだけ吊り上がった勝気そうな瞳。俺と同じく少し着崩した入学式用のスーツ姿だが、それでも隠しきれないスタイルの良さがある。客観的に見て、間違いなく「美少女」の部類に入る容姿だった。
しかし、彼女の口から紡がれた言葉は、その清楚な見た目とは絶望的にミスマッチだった。
「ガチャ引く前に、一旦フレンドポイントガチャを十連して、星2のキャラが出た瞬間に本命のガチャを単発で三回引く。これが基本のオカルト乱数調整だろ。常識だぞ?」
「いや、どこの常識だよ! オカルトって自分で言っちゃってんじゃねーか!」
俺は脊髄反射でツッコミを入れていた。初対面の、しかも美少女相手だというのに、そんなことを気にする余裕はなかった。
「ふっふっふ、素人はこれだから困る。いいか、乱数の神様はな、信じる者の元にしか微笑まないんだよ。ちょっとスマホ貸してみろ」
「おい勝手に……あ、こら!」
彼女は有無を言わさず俺の隣にドカッと座り込むと、俺の手からひったくるようにスマホを奪い取った。そして、流れるような手つきでフレンドポイントガチャを引き始める。
「お、星2出た。よし、今だ!」
彼女が本命のガチャボタンをタップする。画面が光り、虹色の演出が走った。
「……は?」
「ほら見ろ! ピックアップ確定演出! 私の言った通りだろ!」
ドヤ顔でスマホを突きつけてくる彼女。画面には、俺が喉から手が出るほど欲しかった大剣使いの美少女キャラクターが微笑んでいた。
「マジかよ……いや、偶然だろ絶対。たまたま確率の壁を越えただけだ」
「素直じゃないなー。感謝してくれてもいいんだぞ? 崇め奉れ」
「誰が崇めるか。そもそも初対面の奴のスマホ勝手に奪うなよ。お前、名前は?」
「私? 私は夏目結衣(なつめゆい)。お前と同じ新入生だ。よろしくな、ガチャ爆死くん」
「相沢透だ。爆死くんって呼ぶな。……でも、まぁ、引いてくれたことには感謝する。サンキューな、夏目」
「おう。気にすんな相沢。ところでさ、お前そのゲーム、ランクいくつ?」
そこからだった。俺たちの間に、初対面の壁などというものは一瞬にして消え去った。
結衣は見た目こそ清楚系美少女だが、中身は筋金入りのゲーマーであり、深夜アニメの知識も俺と完全に一致していた。好きなゲームのジャンル、プレイスタイル、さらには「ポテトチップスはコンソメ派か、のり塩派か」というどうでもいい好みに至るまで、恐ろしいほどのシンクロ率を見せたのだ。
「マジで!? あのボス、初見でソロ討伐したのかよ!」
「当たり前だろ。回避フレーム見極めれば余裕だっつーの。お前こそ、あのアニメの最終回で泣いたとか、案外涙脆いんだな」
「うるせえ! あれは泣くのが義務みたいな演出だったろ!」
気づけば、入学式の喧騒はすっかり落ち着き、キャンパスには夕暮れが迫っていた。俺たちはベンチに座ったまま、何時間も喋り倒していたのだ。
「いやー、まさか大学初日でこんなに話が合う奴に出会えるとは思わなかったわ。お前、最高だな!」
結衣がニカッと、太陽のような屈託のない笑顔を向けてくる。その笑顔に、俺は少しだけ目を奪われそうになったが、すぐに鼻で笑って右手を差し出した。
「お前もな。口は悪いが、腕は確からしい。これからよろしく頼むわ、親友」
「おうよ! 最高のゲームライフを満喫しようぜ、親友!」
ガシィッ! と、俺たちは熱い握手を交わした。
それはまさに、少年漫画の主人公とライバルが意気投合したかのような、暑苦しくも清々しい瞬間だった。俺の大学生活は、この最高の「親友」のおかげで、退屈とは無縁のものになると確信した。
――ただ、この時の俺はまだ気づいていなかった。この「最高の親友」という肩書きが、後々俺自身を大いに苦しめることになるということに。


第2章『息をするようにボケるお前と、脊髄反射でツッコむ俺の平和な日常』

「透、今日の学食のカレー、なんかいつもよりルーの粘度が高くないか? これ絶対、スライムの死骸が混ざってるぞ」
「混ざってねぇよ。お前の目は節穴か。それはただの煮込まれすぎたジャガイモだ。あと、カレーうどんにコロッケ乗せるのやめろ。炭水化物の暴力かよ」
「カロリーは熱に弱いから、うどんの熱でゼロになるんだよ。常識だろ」
「どこの異世界の常識だよ! お前の脳内カロリー計算バグりすぎだろ!」
大学に入学して半年が経った秋。昼休みの学食で、俺たちはいつものように向かい合って座り、くだらない会話を繰り広げていた。
結衣は相変わらず、息をするようにボケをかましてくる。対する俺は、それを一つ残らず拾い上げては的確にツッコミを入れる。もはやこれは俺たちの間に確立された伝統芸能であり、日常の風景だった。
「あー、お腹いっぱい。午後からの経済学の講義、絶対寝る自信あるわ」
結衣が大きく背伸びをしながら、満足げにお茶をすする。
「自信満々に言うな。先週も寝てて、教授にチョーク投げられそうになってただろ」
「あんな呪文みたいな声で喋られたら、スイミンの魔法にかかるのは必然だろ。透、ノート取っといてくれよな」
「お前なぁ……親友を便利な記録媒体だと思ってないか?」
「思ってないよ。透は私の大事なパーティーメンバーだ。職業は『筆記用具』な」
「アイテムじゃねーか!」
俺が声を張り上げたその時、横から呆れたような声が割り込んできた。
「お前ら、今日も元気に夫婦漫才やってんなぁ。周りの目、ちょっとは気にしろよ」
同じ学部の友人、佐藤がトレイを持って俺たちのテーブルにやってきた。佐藤は俺と結衣のやり取りを、いつも生温かい目で見守る(というか面白がる)観客の一人だ。
「夫婦漫才ってなんだよ。俺たちはただの『親友』だぞ」
「そうそう。透みたいな小姑気質の男、旦那にしたら息が詰まるわ。私たちは魂で結ばれた戦友だからな」
俺と結衣は息ぴったりに反論する。しかし、佐藤は「はいはい」と肩をすくめた。
「お前らさぁ、入学当初からずっと一緒にいるじゃん。講義も一緒、昼飯も一緒、休日はオンラインでずっとゲーム。それ、世間一般では『付き合ってる』って言うんだぞ?」
「「いやいや、ないない!!」」
俺と結衣は、見事なユニゾンで全否定した。
「そもそも、こいつに女っ気なんて欠片もないからな。休みの日はボサボサの頭でジャージ着て、ポテチ食いながらFPSやってるだけだぞ」
「うるせえ! 透だって、休日はパンツ一丁でソファに寝転がってアニメ見てるだけの干物男だろうが! こいつのどこに男としての魅力を感じろって言うんだよ!」
「誰が干物男だ! お前よりは人間らしい生活送ってんだよ!」
「なんだと!? 表出ろ、スマブラで決着つけてやる!」
「上等だ、ボコボコにしてやるよ!」
バチバチと火花を散らす俺たちを見て、佐藤は深く溜息をついた。
「……お前ら、本当に仲いいよな。もうめんどくさいから早く結婚しろよ。ご祝儀は包んでやるから」
「だから親友だって言ってんだろ!!」
再び声を揃えて怒鳴る俺たちを背に、佐藤は「やれやれ」と首を振りながら去っていった。
「まったく、佐藤のやつ、何勘違いしてんだか。男女の友情が成立しないなんて、時代遅れもいいとこだよな」
結衣が不満げに唇を尖らせる。その仕草が少しだけ可愛く見えたのは、きっと今日のカレーのスパイスが効きすぎているせいだろう。
「全くだ。俺とお前が付き合うとか、世界がひっくり返ってもありえねぇよ。お前は俺にとって最高の『男友達』みたいなもんだしな」
「おう! 透も私にとって最高の『女友達』……じゃなくて、なんだ、最高の『相棒』だ! よし、経済学はサボってゲーセン行くぞ! 新しい格ゲーの筐体入ったらしいからな!」
「おい、講義はどうすんだよ!」
「単位なんて後からいくらでも拾える! 今は目の前の格闘(ロマン)を追うべきだ!」
「お前のその謎の行動力、ホント恐ろしいわ……まぁ、行くけど」
結局、俺は結衣のペースに巻き込まれる形で講義をサボり、ゲーセンで夕方まで格ゲーの対戦に明け暮れた。
横並びで筐体に向かい、レバーを弾き、ボタンを叩く。「そこだ!」「甘い!」「昇龍拳!」「ぐあーっ!」と大声を上げながら熱中する時間は、最高に楽しかった。
隣にいるのが美少女であることを忘れさせるほど、結衣との時間は心地よかった。気を遣う必要も、変にカッコつける必要もない。ありのままの自分でいられるこの関係は、間違いなく「最高の親友」以外の何物でもない。
俺たちは、この心地よい関係が永遠に続くと信じて疑わなかった。


第3章『ルームシェア開始。ゼロ距離でも変わらぬ友情(と周囲の呆れ顔)』

風呂上がりの結衣が無防備な格好(ダボダボのTシャツにショートパンツ、濡れた髪)でソファに座り、透が内心ドギマギしているシーン
風呂上がりの結衣が無防備な格好(ダボダボのTシャツにショートパンツ、濡れた髪)でソファに座り、透が内心ドギマギしているシーン

「なぁ透、お前んとこのアパート、来月更新だろ? 実は私んとこもなんだよな」
大学2年の春。いつものように俺の部屋でゲームをしていた結衣が、コントローラーを握ったまま唐突にそんなことを言い出した。
「ああ、そうだな。更新料払うのキツいから、いっそ安いとこに引っ越そうか迷ってるんだよ」
「奇遇だな、私もだ。……で、一つ提案があるんだが」
結衣はゲームの画面から目を離し、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私たちさ、どうせ毎日一緒にいるんだし、いっそのこと家賃折半してルームシェアしねぇ? 2DKの広い部屋借りても、一人当たりの負担は減るし、何より24時間いつでもゲームできる最高の環境が整うぞ!」
「……お前、天才かよ」
俺は即答していた。
男女のルームシェア。普通なら色々と問題が起きそうなものだが、相手は結衣である。親友との同居生活なんて、楽しいに決まっている。光熱費も浮くし、ゲーム機やソフトも共有できる。メリットしかない。
こうして、俺と結衣のルームシェア生活はあっさりと幕を開けた。
引っ越し初日。ダンボールが山積みになった新しい部屋のど真ん中で、俺たちは宅配ピザを囲んで祝杯をあげていた。
「いやー、広いな! これならVRゲームも余裕でできるぞ!」
結衣がコーラを一気飲みしながらはしゃぐ。
「お前な、まずは荷解きが先だろ。あっちのダンボール、全部お前の漫画とゲームじゃねーか」
「いいんだよ、後でやるって。今日は新居祝いだ。ほら、透もピザ食え。Lサイズ二枚頼んだんだからな」
「お前の胃袋はどうなってんだよ……」
文句を言いつつも、俺はピザに手を伸ばす。こうして二人で馬鹿なことを言い合いながら飯を食うのは、やっぱり最高に楽しい。
しかし、同居を始めて数日もすると、俺はある「問題」に直面することになった。
「あー、風呂最高だった。生き返るわー」
ある夜、風呂から上がってきた結衣を見て、俺は思わず飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。
「ぶっ! お、お前……! なんだその格好は!」
結衣は、ダボダボのTシャツに、ショートパンツという極めて無防備な姿だった。Tシャツの襟元からは鎖骨がくっきりと見え、ショートパンツからは白くて細い足が惜しげもなく晒されている。おまけに、濡れた髪から水滴が滴り落ちており、なんだか妙に色っぽい。
「ん? なんだよ。風呂上がりの正装だろ。文句あるか?」
結衣は全く気にする素振りも見せず、冷蔵庫からアイスを取り出してソファにどっかりと座った。
「いや、文句っていうか……お前、一応女なんだからさ。もうちょっと危機感というか、そういうの持てよ」
「はぁ? 相手は透だぞ? 親友相手に何を気を遣う必要があるんだよ。それともお前、私のこの姿見て興奮でもしてんの? キモッ」
「してねぇよ!! 誰がお前なんかに興奮するか!」
「だろ? なら問題ないじゃん。ほら、早くスマブラ起動しろよ。今日は私がボコボコにしてやるからな」
けらけらと笑いながらコントローラーを投げてくる結衣。
俺はそれを受け取りながら、心の中で密かにため息をついた。
(こいつ、自分の容姿の良さを全く自覚してないんだよな……)
客観的に見て、結衣はめちゃくちゃ可愛い。大学でも密かにファンが多いと聞く。だが、中身がこれだから、誰も近寄れないのだ。
俺も、頭では「こいつは親友だ」と理解している。しかし、こうして同じ屋根の下で暮らし、物理的な距離がゼロに近づくと、ふとした瞬間に「女」としての結衣を意識してしまう自分がいるのも事実だった。
ふわりと香るシャンプーの匂い。隣に座った時に触れる肩の温もり。ゲームに熱中して身を乗り出した時に見える、無防備なうなじ。
「……おい透、どうした? 動きが鈍いぞ。ほらほら、隙だらけだ!」
「あ、ヤベッ!」
思考を持っていかれていた隙を突かれ、画面の中の俺のキャラクターは場外へと吹っ飛ばされた。
「よっしゃー! 私の勝ち! 透、罰ゲームとして明日のおやつ奢りな!」
無邪気に喜ぶ結衣の笑顔を見て、俺は小さく息を吐き出した。
「しゃーねーな。ハーゲンダッツ奢ってやるよ」
「マジ!? 透太っ腹! 一生ついていくわ!」
「一生は重いわ! せいぜい大学卒業までだろ」
俺たちは笑い合いながら、次の試合の準備を始める。
胸の奥に芽生え始めた、名状しがたい小さな感情。俺はそれに気づかないふりをして、「最高の親友」という仮面を被り直した。この楽しくて心地よい日常を、壊したくなかったからだ。


第4章『「親友」の隣に俺以外の男がいるのが、なんだか無性に腹が立つ』

ルームシェアを始めて半年が過ぎた秋。俺たちの関係は、良くも悪くもすっかり落ち着き払っていた。
しかし、ある日の午後。大学のゼミの集まりで、俺は予期せぬ光景を目の当たりにすることになった。
「夏目さん、この後の講義空いてる? よかったら、駅前に新しくできたカフェ行かない?」
結衣に声をかけていたのは、一つ上の先輩である高橋だった。高橋先輩は爽やかなイケメンで、女子からの人気も高い。そんな彼が、明らかに下心……いや、好意を持って結衣にアプローチをかけている。
「え? カフェですか? ……あー、ごめんなさい。私、甘いものよりしょっぱいもの派なんで、パンケーキとか興味ないんですよね」
結衣のド直球すぎる断り文句に、高橋先輩は少し顔を引きつらせたが、すぐに笑顔を作り直した。
「そ、そっか。じゃあ、焼肉はどう? 美味しい店知ってるんだ。奢るよ?」
「焼肉!? 奢り!? 行きます!!」
食い気で即答する結衣。俺は少し離れた場所からそのやり取りを見ていて、無性にイライラし始めた。
(あいつ……タダ飯に釣られてホイホイついて行きやがって。高橋先輩の狙いが全く分かってねぇだろ)
ゼミが終わった後、結衣がご機嫌な様子で俺のところにやってきた。
「透! 聞いてくれ! 今日、高橋先輩に焼肉奢ってもらえることになった!」
「……あ、そう。よかったじゃん。高い肉、腹いっぱい食ってこいよ」
俺は努めて平坦な声で返した。親友なら、ここで「おっ、いいな! 土産よろしく!」と返すのが正解だ。
「おう! 任せとけ! お前の分までいい肉食ってくるからな! じゃ、先帰っててくれ!」
ブンブンと手を振って、高橋先輩の元へ駆けていく結衣。その後ろ姿を見送りながら、俺は舌打ちを一つ落とした。
一人で帰宅し、誰もいない部屋の電気をつける。
「……静かだな」
いつもなら「ただいまー! 腹減った、飯!」と騒がしい結衣の声が響くはずなのに、今日はそれがない。
とりあえずテレビをつけ、ゲームの電源を入れる。しかし、コントローラーを握っても全く集中できない。画面の中でキャラクターが動いているのに、頭の中では結衣がイケメン先輩と談笑しながら肉を焼いている光景ばかりが再生される。
「……なんで俺、こんなにモヤモヤしてんだ」
結衣はただの親友だ。あいつが誰と飯に行こうが、誰と付き合おうが、俺の知ったことではない。むしろ、あのがさつな結衣に彼氏ができれば、俺の負担(ツッコミ役)も減るというものだ。喜ばしいことじゃないか。
「そうだよ。俺は、いつものゲーム相手がいなくて暇なだけだ。親友が取られるのが嫌なだけだ」
自分にそう言い聞かせるが、胸の奥のざわつきは一向に収まらない。
時計の針が夜の九時を回った。まだ帰ってこない。焼肉なんて二時間もあれば終わるだろ。まさか、その後どこかに……。
嫌な想像が膨らみ始めたその時。
ガチャリ、と玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー。あー、疲れた……」
ドタドタと足音を立ててリビングに入ってきた結衣は、なぜかげっそりとした顔をしていた。
「お、おかえり。なんだお前、美味い肉食ってきたんじゃないのかよ。えらく疲れてんな」
俺は内心の安堵を隠し、わざとぶっきらぼうに声をかけた。
結衣はソファに倒れ込み、深いため息をついた。
「肉は……肉は最高に美味かったよ。A5ランクの和牛、とろけるようだった。でもさ……」
「でも?」
「高橋先輩の話が、クソほどつまんなかったんだよ!!」
結衣はガバッと起き上がり、不満を爆発させた。
「なんかずっと自分の自慢話ばっかりだし、私の好きなゲームの話振っても『へー、そういうの好きなんだ(笑)』って鼻で笑うし! 全然会話のキャッチボール成立しないの! あーもう、あんな気疲れするなら、透とカップ麺すすってる方が百倍マシだわ!」
その言葉を聞いた瞬間。俺の胸に渦巻いていた黒いモヤモヤが、嘘みたいにスッと晴れていくのを感じた。
「……お前なぁ、奢ってもらっといて文句言うなよ」
俺の口角は、自分でもわかるくらいに緩んでいた。
「だって事実だもん! 透、口直しにスマブラやろうぜ! お前をボコボコにしてストレス発散する!」
「お前にボコられる俺のストレスはどうなるんだよ。まぁ、相手してやるけど」
コントローラーを受け取りながら、俺は確信した。
俺は、結衣が俺以外の男と笑い合っているのが、死ぬほど嫌だったんだ。
これはもう、「親友に対する独占欲」なんて便利な言葉で片付けられる感情じゃない。俺は……俺はとっくの昔に、こいつのことを。
しかし、俺はその感情に名前をつけるのを、まだ恐れていた。


第5章『バグ発生。お前を「女」として意識し始めた俺のポンコツ脳内会議』

風邪で寝込む透に、結衣が至近距離で真剣にお粥をフーフーと冷まして食べさせようとするシーン
風邪で寝込む透に、結衣が至近距離で真剣にお粥をフーフーと冷まして食べさせようとするシーン

「……ごほっ、げほっ!」
季節は冬。厳しい寒波が押し寄せたある日、俺は珍しく高熱を出してベッドでダウンしていた。
体温計の表示は38.5度。全身の関節が痛み、頭は鉛のように重い。
「うわぁ、見事な数字叩き出したな。お前、昨日薄着でベランダに長居してたからだろ。自業自得だな」
ベッドの傍らで、結衣が腕を組んで呆れ顔で見下ろしてくる。
「うるせぇ……誰のせいだと思ってんだ。お前が『雪が降ってる!』って外に引っ張り出したからだろうが……」
「細かいことは気にするな。ほら、冷えピタ貼ってやるから、おとなしく寝てろ」
結衣はペチッと容赦ない手つきで俺の額に冷却シートを貼り付けた。
「いっ! もっと優しく貼れよ……」
「病人なんだから文句言うな。……で、食欲はあるか? お粥くらいなら作ってやれるぞ。レトルトだけど」
「……頼む」
結衣がキッチンへ向かう足音を聞きながら、俺はぼんやりと天井を見つめていた。
あいつ、今日バイトだったはずなのに。休んでくれたのか。
普段はガサツで男勝りな結衣だが、こういう時は妙に世話焼きになる。そのギャップが、弱った体と心にやけに沁みた。
しばらくして、「ほら、できたぞ」とお盆を持った結衣が戻ってきた。
湯気を立てるお粥の横には、スポーツドリンクと風邪薬が添えられている。
「サンキュー……自分で食うから、そこに置いといてくれ」
体を起こそうとしたが、思いのほか力が入らず、ぐらりとバランスを崩した。
「おっと、危ねぇ。ほら、無理すんな。私が食べさせてやるから」
「は? いや、いいよ! 自分で食えるって!」
「意地張るな。親友の危機なんだから、これくらい世話焼かせろ。ほら、あーん」
結衣はスプーンでお粥を掬い、フーフーと息を吹きかけて冷ましてから、俺の口元に差し出してきた。
至近距離にある結衣の顔。真剣な眼差し。普段は気づかないほど微かな、女の子らしい甘い香り。
ドクン、と。俺の心臓が、熱とは違う理由で大きく跳ねた。
「……ほら、早く口開けろよ。冷めるぞ」
「あ、ああ……」
俺は促されるままに口を開け、お粥を飲み込んだ。味なんて全くわからなかった。ただ、結衣の指先がかすかに唇に触れた感触だけが、脳裏に焼き付いて離れない。
「よしよし、いい子だ。……お前さ、たまには私を頼れよな。いっつもツッコミ役で、私の面倒ばっかり見てるんだからさ」
少し照れくさそうに、結衣が視線を逸らして呟く。
「お前が死んだら、一緒にゲームする相手がいなくなるし……私のボケにツッコんでくれる奴もいなくなるだろ。だから、早く治せよ」
その言葉は、不器用な結衣なりの最大限の「心配」と「愛情」だった。
ああ、ダメだ。
俺の中で、「親友」という言葉で必死に蓋をしてきた感情のダムが、完全に決壊する音がした。
俺は、こいつのことが好きだ。
ゲームの趣味が合うからでも、ルームシェアしているからでもない。この不器用で、ガサツで、でも誰よりも優しくて、一緒にいると世界が最高に楽しくなる「夏目結衣」という一人の女の子に、俺は完全に惚れてしまっている。
「……透? おい、顔赤いぞ。熱上がったか?」
結衣が心配そうに覗き込んでくる。その顔が近すぎて、俺は慌てて布団を頭まで被った。
「な、なんでもない! 食ったから寝る! お前は向こう行ってろ!」
「なんだよ、人がせっかく優しくしてやってんのに。じゃあ、何かあったら呼べよな」
結衣の足音が遠ざかり、部屋のドアが閉まる。
静寂の中、俺は布団の中で自分の激しい心音を聞いていた。
(バグだろ、これ……。俺の脳内、完全にエラー吐いてるぞ)
親友だと思っていた。一生、この関係でいいと思っていた。
だが、自覚してしまった以上、もう元の「ただの親友」には戻れない。
どうする? 告白するのか? もしフラれたら、この居心地のいいルームシェアも、バカみたいに笑い合える日常も、全て終わってしまう。
それでも……。
俺は布団から顔を出し、結衣が出ていったドアをじっと見つめた。
俺以外の男の隣で笑う結衣を想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。この特等席を、誰にも譲りたくない。
風邪の熱に浮かされながら、俺は一つの決意を固めていた。


第6章『親友の壁をぶち壊せ。一生一緒にいるための、俺なりのケジメ』

冬の夜のベランダで、両想いだと分かり涙ぐむ結衣を透が強く抱きしめる告白のシーン
冬の夜のベランダで、両想いだと分かり涙ぐむ結衣を透が強く抱きしめる告白のシーン

風邪から復帰して以降、俺の様子が明らかにおかしいことは、誰の目にも明白だった。
「おい透、今の私のボケ、完全にスルーしただろ! 『いやそれ物理法則無視してんじゃん!』ってツッコむところだぞ!」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「聞いてないってなんだよ! 最近のお前、マジでツッコミのキレが鈍いぞ。ポンコツか!」
結衣からのクレームが日常茶飯事になっていた。
無理もない。俺の頭の中は「いかにして結衣に告白するか」という命題で占められており、彼女のボケを処理するリソースが残っていないのだ。
ふとした瞬間に結衣の顔を見ては(可愛いな……)と見惚れ、結衣が俺の服の袖を引っ張るだけで(距離近っ!)とドギマギする。完全な恋する乙女……いや、童貞ムーブである。
そんな状態が二週間ほど続いたある夜。
風呂上がりにベランダで缶ビールを飲んでいると、結衣が窓を開けて隣に並んできた。
「……なぁ透。お前、最近なんか悩み事でもあるのか?」
結衣は珍しく真面目なトーンで切り出してきた。夜風に揺れる髪が、街灯の光に照らされて綺麗だ。
「なんで?」
「なんでって、見てりゃわかる。上の空だし、ゲームも手抜いてるし。私を誰だと思ってるんだ、親友だぞ。なんかあるなら言えよ。借金か? それとも単位やばいのか?」
「どっちも違うわ。俺をなんだと思ってんだ」
「じゃあなんだよ。隠し事すんなって」
結衣が俺の顔を真っ直ぐに覗き込んでくる。その瞳には、純粋な心配の色が浮かんでいた。
……ああ、もう限界だ。
俺は缶ビールをベランダの手すりに置き、深く息を吸い込んだ。乱数調整なんていらない。これは、俺の意志で引き当てる確定ガチャだ。
「結衣」
「ん?」
「俺たち、最高の親友だよな」
「当たり前だろ。今更なんだよ」
「俺はお前といると楽しいし、お前のボケにツッコむのも好きだし、一緒にゲームする時間も最高に好きだ」
「おう、私もだぞ。だからなんだよ、気持ち悪いな」
結衣は照れ隠しのように鼻で笑ったが、俺は真剣な表情を崩さなかった。
「だから、親友やめようぜ」
「……は?」
結衣の動きがピタリと止まった。手にした缶チューハイが、微かに震えている。
「親友、やめる……? お前、急に何言って……私、なんか嫌われるようなことしたか……?」
結衣の声が、目に見えて動揺し、少し震えていた。勘違いさせてしまったらしい。俺は慌てて言葉を継いだ。
「違う! そういう意味じゃない。俺は……」
一拍置いて、俺は結衣の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「俺は、お前のことが好きだ。親友としてじゃなくて、女として」
「…………え?」
「お前が他の男と出かけるのが嫌だ。お前の笑顔を一番近くで見ていたい。親友っていう便利な言葉で誤魔化すのは、もう限界なんだよ。……俺の、彼女になってくれ」
静寂。
ベランダには、遠くを走る車の音と、冬の冷たい風の音だけが響いていた。
結衣は目を見開いたまま、完全にフリーズしている。顔は徐々に、耳の先まで真っ赤に染まっていった。
「お、お前……っ、そういう大事なことは、もっと乱数調整してから言えよ……っ!」
ようやく絞り出した声は、完全にテンパっていた。
「乱数調整ってなんだよ。俺は今、SSR確定のガチャ引いてんだよ」
「バカッ……! そういうキザなこと言うな! ……っ、ずるいぞ、お前……」
結衣は手で顔を覆い、しゃがみ込んでしまった。
「結衣……?」
「……私も」
指の隙間から、消え入りそうな声が漏れる。
「私も……お前のこと、親友以上に……その、好き、だったから……。だから、ルームシェアとか、提案したのに……お前が全然、そういう素振り見せないから……!」
「えっ……お前、マジで?」
「嘘言ってどうすんだよ! ……バカ透。遅すぎるんだよ、ツッコミが……!」
顔を上げた結衣の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
俺は、しゃがみ込む結衣の腕を掴み、そっと引き寄せた。そして、その華奢な体を強く抱きしめる。
「ごめん。俺が鈍感すぎた。……これからは、彼氏として、お前のボケに一生ツッコんでやるよ」
「……約束、だからな。途中でパーティー抜けるの、禁止な」
俺の胸の中で、結衣が小さく頷く。
親友という壁をぶち壊した先には、これ以上ないほど最高のエンディングが待っていた。


第7章『親友から恋人へ。肩書きが変わっても、俺たちのノリは変わらない』

親友から恋人になった翌朝。
俺は、かつてないほどの緊張とともにリビングのドアを開けた。
恋人同士になって初めての朝。おはようのキスとかするんだろうか。それとも、照れくさくてまともに顔が見られないとか……。
「おっ、遅いぞ透! 目玉焼き冷めるぞ!」
リビングでは、いつもと全く変わらない、ジャージ姿で髪をボサボサにした結衣が、フライパンを片手に仁王立ちしていた。
「……おはよー、彼女殿」
「やかましいわ彼氏殿。ほら、早く座れ。今日の目玉焼きは、醤油を致死量かけておいたからな」
「なんでだよ! 塩分過多で俺を殺す気か! 彼氏の健康管理くらいしろ!」
「愛の重さだと思え。食え」
結衣の容赦ないボケに、俺は間髪入れずにツッコむ。
なんだ、全然変わってないじゃないか。俺の緊張を返してほしい。しかし、その「変わらなさ」が、俺たちにとっては一番心地よかった。
大学へ向かう道中、いつもなら少し距離を空けて歩くところを、今日は結衣がスッと俺の隣に寄り添ってきた。
「……なんだよ」
「んーん? 別に? 彼氏の横顔を観察してるだけだぞ」
ニシシと笑う結衣。その顔が近くて、俺は思わず視線を逸らした。
「……前見て歩けよ、転ぶぞ」
「透が助けてくれるからいいもーん」
そんなイチャイチャ(?)を繰り広げながら大学に到着すると、キャンパスの入り口で佐藤と出くわした。
佐藤は俺たちを見るなり、ピタリと足を止め、目を細めた。
「……お前ら。なんか今日、やけに雰囲気違わねぇか?」
「えっ、そうか? 気のせいだろ」
俺が誤魔化そうとすると、佐藤はため息をつきながら言った。
「いや、バレバレだから。お前ら、ついに付き合ったのか?」
俺と結衣は顔を見合わせた。そして、息を吸い込み、同時に言い放った。
「「いや、親友から恋人にジョブチェンジしただけだから!!」」
佐藤は天を仰いだ。
「変わってねぇよ! 言ってることめちゃくちゃだし、やっぱりお前らバカップルじゃねーか! もう勝手にしろ!」
吐き捨てるように言って去っていく佐藤。俺たちは顔を見合わせ、声を上げて笑った。
「あははっ! 佐藤のやつ、また呆れてたな!」
「まぁ、周りから見たら変わってないように見えるかもな。俺たちのノリは、これからもこんな感じだろうし」
講義が終わり、夕暮れの帰り道。
俺たちは並んで歩きながら、今日発売されたゲームの話で盛り上がっていた。
「だから、あの武器のステータスはおかしいって! 絶対下方修正入るぞ!」
「いやいや、運営はわかってて実装したんだよ。あれはロマン武器だ!」
いつも通りの、くだらない議論。
しかし、俺の右手には、いつもと違う温もりがあった。
俺の右手と結衣の左手が、しっかりと繋がれている。親友の時には絶対にありえなかった、ゼロ距離の接触。
結衣はゲームの話をしながらも、繋いだ手を少しだけ強く握り返してきた。
「……なんか、手繋ぐのって、いいな」
夕日に照らされた結衣の横顔は、少しだけ赤く染まっていた。それは夕暮れのせいだけではないだろう。
「……そうだな」
俺も、柄にもなく照れくさくなって、空を見上げた。
最高の親友であり、最高の相棒であり、そして最高の彼女。
俺の隣には、世界で一番気が合う、厄介で愛おしいフラグクラッシャーがいる。
「なぁ透。帰ったら、早速あのゲームの協力プレイやろうぜ。徹夜確定な」
「バカ、明日は一限から講義だぞ。……まぁ、三時までなら付き合ってやるけど」
「よっしゃ! さすが彼氏殿、話がわかる!」
俺とこいつの日常は、これからもずっと続いていく。
息をするようにボケるこいつに、俺が脊髄反射でツッコむ。時には喧嘩して、ゲームで勝負して、一緒に笑い合う。
関係に名前がついたところで、俺たちの根本は何も変わらない。
だって俺たちは、最高に気が合う"親友"カップルなのだから。