タイトル:『俺とこいつはただの親友だ。異論は認めないが、なぜか周囲が祝儀を包んでくる』

「うおおおおおっ! どいてどいてーっ!」
春。大学のキャンパスに桜が舞い散る中、俺――神谷悠真(かみやゆうま)の視界に、猛スピードで突っ込んでくる一つの影があった。
長い黒髪をなびかせ、なぜか口に特大の焼きそばパンを咥えた女子大生だ。少女漫画のベタな遅刻シーンかよ、とツッコむ暇もなく、俺と彼女は見事に正面衝突した。
「ぐふっ!」
「あいたーっ! ……あっ、私の焼きそばパンが宙を舞っている!?」
彼女の口から離れた焼きそばパンが、スローモーションのように放物線を描く。俺は咄嗟に体を捻り、地面にスライディングしながらそのパンを両手でキャッチした。ギリギリセーフ。包装のビニールには土一つついていない。
「……ナイスキャッチだ、少年」
「誰が少年だ。ほらよ、お前の命より大事そうなパン」
「おおっ! ありがとう! 君、すっごくいい動きするね! 私、星野結衣(ほしのゆい)! 君は?」
「神谷悠真だ。つーかお前、大学初日から廊下をダッシュしてパン落としかけるって、どんだけ食い意地張ってんだよ」
「えへへ、購買の限定パンだったからつい。悠真、お近づきの印に一口あげる!」
結衣はそう言うと、焼きそばパンをちぎることもなく、そのまま俺の口元に突き出してきた。
初対面の女から間接キス前提のシェアを求められる。普通ならドキッとするところだろうが、結衣の屈託のない笑顔と「早く食え」と言わんばかりのキラキラした目を見ていたら、そんな照れは一瞬で吹き飛んだ。
「……じゃあ遠慮なく。あぐっ」
「あーっ! 焼きそばの一番美味しいところごっそりいかれた! 悠真のバカ! 悪魔! 焼きそば泥棒!」
「お前が一口あげるって言ったんだろうが! ほら、文句言ってないで次の講義行くぞ。遅刻するぞ」
「あっ、やば! 悠真、走るよ! 私の背中についてこい!」
そう言って俺の腕を掴み、猛ダッシュを再開する結衣。
なんで俺は初対面の女に腕を引かれて走っているのだろうか。だが、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ、昔からの悪ガキ仲間と一緒にいるような、妙な居心地の良さがあった。
これが、俺と結衣の「最高の友情」の始まりだった。恋? いやいや、こんな焼きそばパン女にそんな感情を抱くわけがない。俺たちは、最高に気が合う「親友」になる運命だったのだ。
大学入学から三ヶ月。俺と結衣は、キャンパス内で「名物コンビ」としてすっかり定着していた。
「悠真! 見てこれ、学食の新メニュー『メガ盛りカツカレー・タワー』! これを私一人で平らげてみせる!」
「お前の胃袋はブラックホールか。絶対途中で苦しくなるからやめとけって。ほら、半分こしてやるから取り皿持ってこい」
「えっ、いいの!? 悠真、マジで神! 一生ついていく!」
「大げさだっつの。あとカツの配分は俺が7でお前が3な」
「鬼! 悪魔! 焼きそば泥棒!」
「いつまでそのあだ名引っ張るんだよ!」
学食のテーブルで、メガ盛りカツカレーを挟んでスプーンを交差させる俺たち。
そんな俺たちの様子を、向かいの席に座っていた友人の健太が、呆れたような顔で見ていた。
「お前らさぁ……もう付き合っちゃえよ。見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだけど」
「はあ?」「はあ?」
俺と結衣の声が見事にハモる。
「健太、お前目が腐ってんのか? 俺と結衣が付き合う? ないない」
「そうだよ健太くん! 私と悠真は『最高の親友』なの! 男同士の熱い絆みたいなもんだよ。ね、悠真!」
「おう。俺にとってこいつは、よく食い、よく寝て、よくボケる大型犬みたいなもんだ。恋愛感情なんて1ミリも湧かねえよ」
「大型犬ってなんだ! 私は美少女だぞ、美少女!」
「自分で言うな。ほら、口の周りにカレーついてるぞ」
俺はテーブルにあった紙ナプキンを取り、結衣の口元をゴシゴシと拭いた。
「んんっ! 痛い痛い、悠真、拭き方が雑!」
「じっとしてろ。……よし、取れた。ったく、手のかかる親友だぜ」
「えへへ、サンキュー相棒!」
結衣は満面の笑みで親指を立てる。俺も親指を立てて返す。
それを見た健太は「……お前ら、それ恋人同士の距離感だからな? 絶対後で自覚して爆発しろ」と頭を抱えていた。
何を言っているんだこいつは。俺たちはただの親友だ。一緒にいて最高に楽しくて、ボケとツッコミの波長が合うだけのマブダチ。それ以上でもそれ以下でもない。周りが勝手に恋愛フィルターをかけて見ているだけだ。俺たちはいつだって、清く正しい友情を育んでいるのだから。

「悠真ぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」
ある大雨の夜。俺のアパートのドアがぶっ壊れるんじゃないかという勢いで叩かれ、開けた途端にずぶ濡れの結衣が飛び込んできた。
「うわっ!? お前、なんだその格好! 傘はどうした!」
「上の階の部屋の水道管が破裂して、私のアパートの部屋が滝になっちゃったの……! 布団もパソコンも全滅……! 私はもうダメだ、ここで朽ち果てる……」
「バカ、玄関で朽ち果てるな邪魔だ! とりあえず中入れ。バスタオル貸してやるから、すぐシャワー浴びてこい!」
泣きべそをかく結衣を風呂場に押し込み、俺は急いで着替えを用意した。とはいえ俺の服しかないため、ブカブカのTシャツとスウェットのズボンを貸すことになる。
しばらくして、風呂場から「ふぃー、生き返ったー」という間の抜けた声と共に、結衣が出てきた。
「悠真、服ありがと! ちょっとデカいけど、匂いが悠真の匂いして安心するー」
「……お前な、男の部屋でそういうこと無防備に言うのやめろ。ダチじゃなかったら勘違いするぞ」
「えー? 悠真は私の親友でしょ? 家族みたいなもんじゃん。変な気なんて起こさないって信じてるもん」
そう言って、俺のベッドにダイブする結衣。濡れた髪から香るシャンプーの匂いと、ブカブカのTシャツから覗く白い首筋に、俺の心臓が一瞬だけ「ドクン」と跳ねた。
……いやいやいや! 落ち着け俺。相手はあの結衣だぞ。焼きそばパン女だぞ。親友に対してドキドキするとか、男の友情に対する裏切り行為だろ。
「おいコラ、人のベッドを勝手に占拠するな。お前は床に布団敷いて寝ろ」
「えー! 水没難民にそんな冷たい仕打ちするの!? 悠真のベッドふかふかだから私がここで寝る! 悠真が床で寝て!」
「なんで家主の俺が床で寝なきゃなんねえんだよ! ……はぁ、わかったよ。お前はベッドで寝ろ。俺は床で寝る」
「やったー! さすが私の親友! 悠真大好き!」
「はいはい、わかったから早く寝ろ」
電気を消し、床の布団に横たわる。ベッドの上からは、すぐにスースーという規則正しい寝息が聞こえてきた。
「……無防備すぎるだろ、こいつ」
俺は暗闇の中でため息をついた。親友の危機を救うのはダチとして当然だ。だが、この同居生活(仮)、俺の理性がどこまで持つのか、少しだけ不安になってきた夜だった。
結衣のアパートの修繕工事が長引くことになり、俺たちの奇妙な同居生活はすでに二週間目に突入していた。
一緒にスーパーに買い出しに行き、一緒に飯を食い、一緒にテレビを見てツッコミを入れる。それが当たり前の日常になりつつあったある日のこと。
大学の帰り道、駅前のカフェのテラス席で、結衣が見知らぬ男と親しげに話しているのを目撃してしまった。
「……誰だ、あいつ」
男は爽やかなイケメン風で、結衣に向かって身を乗り出すようにして話しかけている。結衣も笑顔で頷いており、はたから見れば完全にいい雰囲気のカップルだった。
その瞬間、俺のみぞおちのあたりがギュッと締め付けられるような、得体の知れない感情が湧き上がった。
なんだこのイライラは。腹の底が煮えくり返るような、不快な感情。
俺は無意識のうちに足を踏み出し、二人のテーブルにズカズカと歩み寄っていた。
「おい結衣。こんなとこで何油売ってんだよ。今日の夕飯の当番、お前だろ」
「あっ、悠真! ごめんごめん、ちょっとゼミの先輩に相談乗ってもらってて」
「……そちらは?」と、イケメン先輩が胡散臭そうな目で俺を見てくる。
「俺はこいつの……『同居人』兼、親友です。結衣、もう帰るぞ」
「えっ、ちょ、悠真!? 引っ張らないでってば! 先輩、すみません、また明日!」
俺は半ば強引に結衣の腕を引き、カフェから連れ出した。
しばらく無言で歩いた後、結衣が不満そうに口を開いた。
「ちょっと悠真、なんなのさ。せっかく先輩がゼミのレポート手伝ってくれるって言ってたのに」
「……あんなチャラそうな男に手伝ってもらわなくても、俺が教えてやるよ。それより、無防備に男についていくな。お前は危機感が足りねえんだよ」
「なによそれ。ただの先輩だし。それに、悠真、さっき『同居人』って言ったでしょ! 先輩、絶対変な誤解したよ!」
「誤解じゃねえだろ。現に今、同じ部屋に住んでるんだから」
「そうだけどさぁ……。もしかして悠真、妬いてるの?」
結衣がニヤニヤとからかうように顔を覗き込んでくる。
「はっ!? や、妬くわけねえだろ! 親友が変な男に騙されないように保護者として注意してやってんだよ!」
「ふーん? まあいいや。悠真がレポート手伝ってくれるなら、それでいっか!」
結衣は機嫌を直し、俺の腕にギュッと抱きついてきた。
腕に当たる柔らかい感触に、俺の顔が一気に熱くなる。
俺は親友だ。結衣の最高の相棒だ。なのに、なぜ他の男といるだけでこんなに腹が立ったのか。そしてなぜ、腕を組まれただけで心臓がうるさいほど鳴っているのか。
俺はそろそろ、自分の抱えている「病気」の名前を認めなければならないのかもしれない。
「げほっ、ごほっ……うぅ、死ぬ……」
「大げさに言うな。ただの風邪だろ。ほら、スポーツドリンク飲めるか?」
同居生活三週間目。結衣が熱を出して寝込んだ。
季節の変わり目ではしゃぎすぎたのが原因だ。俺は大学の講義を休み、氷枕を替えたり、お粥を作ったりと、つきっきりで看病していた。
「悠真ぁ……ごめんね、私なんかのために講義休ませちゃって」
「バカ言え。親友がピンチの時に助けるのがダチってもんだろ。気にするな」
「……ふふ。悠真って、本当に過保護だよね。お母さんみたい」
「誰がお母さんだ。ほら、熱測るぞ」
体温計を脇に挟ませる。熱で顔を赤くし、うるんだ瞳で俺を見つめる結衣。普段の騒がしい大型犬のような姿はどこへやら、今はただの弱々しい小動物のようだ。
その無防備な姿を見ていると、俺の胸の奥でまたあの「ドクン」という音が鳴った。
「ねえ、悠真……」
「ん? なんだ、水か?」
「悠真が、私の彼氏だったらよかったのになぁ……」
ピタリ、と俺の動きが止まった。
「……は? お前、熱で頭やられたか?」
「ちがうもん。本心だもん……。悠真と一緒にいると楽しいし、安心するし……ずっと一緒にいたいなぁって……。でも、私たちは親友だから……ダメだよね……」
結衣の声は次第に小さくなり、やがてスースーという寝息に変わった。
どうやら、熱に浮かされて寝言を言っただけのようだ。しかし、俺の心臓は警鐘を鳴らすようにバクバクと激しく脈打っていた。
「……彼氏だったら、よかった、か」
俺は結衣の前髪をそっと撫でた。熱いおでこに触れると、俺の指先まで熱が伝わってくるようだった。
俺たちは親友だ。そう言い張ってきた。
でも、一緒にいて誰よりも楽しくて、他の男といると無性に腹が立って、弱っている姿を見ると守ってやりたいと心底思う。
これのどこが「友情」なんだ。
健太の言葉が脳裏に蘇る。『お前ら、それ恋人同士の距離感だからな?』
……あいつの言う通りだった。俺は、いや、俺たちは、とっくの昔に友情のラインを飛び越えていたのだ。
「親友」という便利な言葉を隠れ蓑にして、お互いのそばにいるための言い訳にしていただけ。
「……バカだな、俺は。こんなにわかりやすい自分の気持ちに、今まで気づかなかったなんて」
眠る結衣の手を、俺はそっと握った。
この熱が下がったら、もう「親友」という言い訳はやめにしよう。俺は決意を胸に、彼女の寝顔を見つめ続けた。

「悠真、一ヶ月間お世話になりました! 今日から私、自分の城に帰還します!」
結衣のアパートの修繕が無事に終わり、ついに彼女が退去する日がやってきた。
荷物をまとめたボストンバッグを肩にかけ、結衣は玄関で満面の笑みを浮かべていた。
「おう。もう二度と水没させるなよ」
「させないよ! っていうか私のせいじゃないし! ……じゃあね、悠真。寂しくなるけど、大学で明日会えるもんね」
結衣がドアノブに手をかけた瞬間、俺はたまらずその腕を掴んでいた。
「……え? 悠真?」
「待て。帰るな」
「へ? いや、でもアパート直ったし……」
「そうじゃなくて……っ、その……」
いざ言おうとすると、口の中がカラカラに乾いて言葉が出てこない。
だが、ここで言わなければ、俺たちはまた元の「親友」というぬるま湯に戻ってしまう。それだけは絶対に嫌だった。
「結衣。俺たち、親友はやめよう」
「…………え?」
結衣の目が見開かれ、ボストンバッグが床にドサリと落ちた。
「親友、やめる……? それって、絶交ってこと……? 私、何か悠真の怒らせること、した……?」
結衣の目に涙が浮かび始める。違う、そうじゃない!
「バカ、早とちりすんな! 絶交じゃねえよ! ……俺は、お前の『親友』から『彼氏』に昇格したいって言ってんだよ!」
「……えっ?」
「お前と一緒にいると、毎日がめちゃくちゃ楽しい。でも、他の男と仲良くしてるのを見ると腹が立つし、風邪引いてるお前を見ると胸が痛くなる。これって、もう友情じゃねえだろ」
俺は一歩踏み出し、結衣の両肩を掴んだ。
「星野結衣。俺はお前が好きだ。最高のダチじゃなくて、最高の恋人になってくれ」
玄関の沈黙が、やけに長く感じられた。
結衣はポカンとした顔で俺を見つめ、やがてその顔が茹でダコのように真っ赤に染まった。
「……ばか」
「えっ?」
「バカバカバカ! 悠真のバカ! 遅いよ! 気づくのが遅すぎるよ……っ!」
結衣は俺の胸にドンッと頭をぶつけてきた。
「私だって……ずっと前から悠真のことが好きだったのに……。親友のままでいたら嫌われるかと思って、ずっと隠してたのに……!」
「お、お前もだったのかよ! じゃああの風邪の時の寝言は……」
「寝言じゃないもん! わざと言ったもん! 悠真が鈍感すぎるから、ちょっと揺さぶってみただけだもん!」
結衣が涙目で俺を睨みつける。その顔が可愛すぎて、俺はたまらず吹き出してしまった。
「はははっ! なんだよそれ。お互い、親友って言葉に縛られてバカみたいだな」
「笑い事じゃないよ! 悠真のせいで、私どれだけヤキモキしたか……!」
「悪かったよ。これからは彼氏として、一生お前のボケにツッコんでやる」
俺は結衣をきつく抱きしめた。
結衣も「……約束だからね、私の彼氏」と呟き、俺の背中に腕を回してくれた。
こうして、俺たちのアホらしくも愛おしい「友情」は終わりを告げ、新たな関係がインストールされたのだった。
「あーっ! 悠真、私の唐揚げ一個食ったでしょ!」
「は? 食ってねーよ! お前が自分で先に食ったんだろ、この鳥頭!」
「嘘だ! 私の唐揚げ探知機が悠真の胃袋から反応を検知している! 返せ私の唐揚げ!」
「胃袋切って取り出せるもんならやってみろ! っていうか、彼氏の特権として一個くらいもらったっていいだろ!」
「むむっ……『彼氏の特権』というワードに弱い私を責める気か……! じゃあ彼女の特権で、悠真のハンバーグ一口もらう!」
「あ、おい! 一口がデカい! 半分無くなったぞ!」
大学の学食。相変わらずのメガ盛りランチを前に、俺と結衣はギャーギャーと騒ぎながら飯を食っていた。
向かいの席に座る健太が、死んだ魚のような目で俺たちを見つめている。
「……お前らさぁ」
「「なんだよ(なによ)」」
「付き合い始めたって聞いて、少しは落ち着いたカップルになるかと思ったら、ノリが前と全く変わってねえじゃねえか。なんだよ唐揚げ探知機って。漫才コンビかよ」
「失礼だな健太。俺たちは『親友』としてのノリを保ちつつ、恋人としての甘い時間を共有している、次世代型ハイブリッドカップルなんだよ」
「そうだよ! 悠真は私の最高の相棒であり、最強のダーリンなんだから!」
結衣が俺の腕にギュッと抱きつき、頭をすりすりしてくる。
言葉では強がっているが、テーブルの下ではしっかりと指を絡めて手を繋いでいた。これが俺たちなりの「高度なスキンシップ」だ。
「……あー、はいはい。ごちそうさま。お前らがバカップルに進化したことだけはよくわかったよ。俺はもう帰る。目が腐る」
健太はため息をつきながらトレイを持って立ち去っていった。
「あーあ、健太くん帰っちゃった。ねえ悠真、この後どうする? 次の講義まで空きコマだよ」
「そうだな。お前の部屋に行って、ゲームでもするか? それとも、俺の部屋で昼寝でもするか?」
「んー……じゃあ、悠真の部屋で! 悠真のベッドふかふかだもん! 悠真と一緒に寝たい!」
「……お前なぁ。彼氏の部屋で一緒に寝たいとか、無防備すぎるだろ。俺が手を出さないとでも思ってんのか?」
俺が少し意地悪く笑って耳元で囁くと、結衣は顔を真っ赤にしてモジモジし始めた。
「……て、手を出してほしいから、行くって言ってるのに……。悠真のヘタレ……」
ボソッと呟かれたその言葉に、今度は俺の顔が爆発しそうになるくらい熱くなった。
「なっ……! お前、そういうセリフは……反則だろ……っ!」
「えへへ、一本取ったりー! ほら、早く行こ、私の彼氏!」
結衣は俺の手を引っ張り、満面の笑みで歩き出す。
その背中を追いかけながら、俺は内心で白旗を揚げていた。
こいつには一生勝てない。ボケとツッコミの応酬でも、恋愛の駆け引きでも。
「俺たちは、最高に気が合う親友だ。……そして、世界で一番幸せな恋人同士だ」
俺の呟きはキャンパスの喧騒に紛れて消えたが、振り返った結衣の「私もだよ!」という笑顔が、全てを物語っていた。
俺とこいつはただの親友だった。でも今は、異論を一切認めない、最高のバカップルだ。